本記事ではオーストラリアのビクトリア州で看護師として働き始めて十年以上になる看護師Aさん(40代前半)へのインタビューを掲載します。2004年から現在までメルボルンに在住されているシングルマザーの看護師さんで、現在は集中治療看護師として働くパワフルな女性です。 ここではインタビューを通して看護師がオーストラリアで働く方法や、永住権、留学、ワーホリ、給料事情などについてもまとめていますので海外で働くことに興味のある看護師の方は是非ご参考下さい。
オーストラリアで働くことを志したきっかけについてまずは教えて下さい。
オーストラリアで看護の仕事をしようとしたきっかけは、小さい時から英語に興味があり、海外をとびまわれる仕事がしたいという夢があったからです。 日本で正看護師の資格を取得後、CCUとICUで6年半仕事をしましたが、国際看護師になるためにはどうすればいいかを常に模索していて、結果的にはやはり英語をマスターする必要がありました。そう思い立ってからは英会話学校に通い英語の勉強をしましたが、なかなか上達しないと感じたため、思い切って友達を頼って渡豪しました。それからワーキングホリデーなどのビザを利用し、3年間の時を経てようやく看護職につきました。
すごい行動力!実際にオーストラリアで働く経験をしてみて、日本との違いって言語以外何がありますか?給料とかですか?
オーストラリアと日本の看護職の違いは様々です。まずお給料が2倍!シフトの希望をほぼ100%聞いてもらえる、有給休暇を好きな時に取れる、仕事の種類が豊富な点などがあるでしょう。 それゆえなのかはわかりませんがオーストラリアでは海外からやってくる看護師の数がとても多いです。最近では、イギリスやアイルランドはもとより、カナダ、アメリカ、フィリピン、マレーシア、シンガポールからきて仕事をしている人がとても多いです。しかし日本看護師の数はまだまだ少ないですね。
給料2倍はすごいですね!日本の給料は以下の記事によると470万以上程度が平均なのですがそれの2倍ということですか?
それでいうと1.5倍とかですね。週に36時間勤務で月給約50万以上(後述) というのが私の今の水準なので時給計算だと2倍近くあるんじゃないでしょうかね!
オーストラリアはイギリスの影響が強い国です。海外からくる専門職は皆英語の試験、イギリス発祥のIELTSに合格しなければなりません。
TOEICはアメリカでの留学や就職に役立ちますが、オーストラリアではIELTSです。 IELTSにはジェネラルとアカデミックがありますが、看護師になるためにはアカデミックでオール7が必要です。アマゾンなどでIELTSの過去問題や千咲テキストを購入し、早めに試験対策をすることが得策です。なぜなら日本の看護師さんがあきらめて帰っていく原因のほとんどが「英語の試験で合格ラインを超えられない」だからです。
IELTSが難しければOET(Occupatioal English Test)の選択もできます。IELTSと比べて、医療的な分野で英語力を試験されるため親しみを感じやすいかもしれませんね。OETでは判定がABCDで行われ、各種目(リスニング・スピーキング・リーデイング・ライテイング)でオールB以上が合格ラインです。英語の試験で合格ラインに達するのがまずは第一歩です。
英語力について上達のコツなど、書籍の購入以外で何かありますか?
最初はやはり日本で少し勉強して欲しいですが、英語での日常英会話ができるようになれば、ワーキングホリデーでオーストラリアでの生活を体験してみるのもいいでしょう。
ワーホリビザの保持者は週に20時間働けます。 私がよくお見かけするワーホリの皆さんはほとんどと言っていいほど日本人同士と一緒に行動しています。それはぜひ避けましょう。ワーホリで1年オーストラリアに住んだのに英語がカタコトと言う人が多すぎると思います。時間と労力を無駄にしないためにも、日本語を使わない環境に身を置くことが先決です。 ちなみに私は、オーストラリアに来た当初、週に一回しか日本語を話しませんでした。住む場所もオーストラリア人のいるシェアハウスなどを選び、ネイテイブと生活して日常英会話をマスターすることに集中しました。
英語習得のポイントは、脳で日本語から英語に変えようとする脳での翻訳動作を全面ストップすることが大切です。 子供が語学を習得する過程を見たことがありますか?子供達はみんな、聞いて・見て・感じて・体験して言葉を習得していくものです。実は大人の英語上達方法の鍵もここにあります。ちなみに私はよく、カフェや公園などでみんなの会話をこっそり聞いたり、映画を字幕なしで見たりしてリスニング力をつけていました。滞在中は日本語をなるべく使わないと決めた人でなければ、語学学校の選択は時間とお金の無駄になることが多いと思います。
たしかにワーホリに行って、日本語を遮断すれば英語力も伸びそうですね。あと気になるのは「ワーホリビザの保持者は週に20時間働けます」という点ですが、すぐにそんな仕事なんて見つかるんでしょうか?
私は最初の間は仕事が取れなくて貯金を使う生活が続きました。そこで私はある保育園でボランテイア活動をし、それがきっかけで就職することができました。ドッグレスキュー(犬猫の保護センター)や老人介護施設など、いつも人手が不足している職場を探し、ボランティアなどから初めて、仲良くなったら直接履歴書を渡す方法が意外と効果的です。勤務態度が良ければ私のように採用してくれる場合も多いです。
仕事が現地でできるとなると長期滞在も見えてきますね。
はい。あと語学力上達には語学学校もありますね。日本人でオーストラリアに住みたい、永住権を取得したい人たちがよく使っているのが、語学学校に入学してスチューデントビザで1年滞在する方法です。語学学校は6ヶ月から12ヶ月のコースを選べます。費用は30万円から100万円と様々です。平均だいたい50万円ほど支払っている日本人生徒さんが多いと思います。もちろん生活費は別です。費用の準備は200万円くらい必要になると思います。オーストラリアの物価はとても高いですから覚悟は必要です。
語学力をつけてもすぐに現地で看護師として働けるわけではないですよね?
はい。英語が上達してきたら、
早めにNursing and Midwifery Board of Australia に看護師登録の手続きを始めましょう。 ワーホリなどでオーストラリアの国内にいる初期の間に手続きを進めるといいでしょう。NAATI (National Accreditation Authority for Translators and Interpreters) で認可されている日本人の翻訳者を探して、メールだけのやり取りでできるので必要書類の翻訳をしておきましょう(
NATTIのウェブサイトはこちらから )。これが第一歩です。
手続きのステップ
1−1 必要書類を集めプロに翻訳をしてもらう。(看護師免許・看護過程修了証明書・成績証明書・在職証明書)
1−2 応募用紙に1−1の翻訳された書類を同封して提出する。提出先は移住する先によって違うのでこちらのリンク を参照してください。
1−3 審査待ち
この期間ははっきり言ってとても長いです。この間に英語の試験を受けて合格しておくといいでしょう。最長で1年間かかったと言う人を知っています。
1−4 通知ゲット
審査を通過したらNursing and Midwifery Board of Australiaから通知が来ます。認定された教育機関がリストアップされているので、個人で教育機関を選びましょう。ほとんどが大学で行われています。大学への応募は個人で行います。(詳しい情報リンク )
これくらいのHPは解読できないと、、。
まあでもそれができて、日本の看護過程を修了していれば、ほぼ間違いなく3ヶ月の短期コースを受けて看護師登録できます。 6週間の講義と8週間の実習で、試験に合格して実習でコンピテンシー審査に合格したら晴れて卒業、登録となります。授業料は現在では約10,000豪ドルから15,000豪ドル(約70万円から100万円 2019年9月の為替)、看護師登録料は$160豪アドルです。 私はメルボルンのDeakin Universityで3ヶ月間のコースを受けました。英語力には自信がありましたが、それでも復習に毎日4時間費やしたほど内容量が多かったです。ほとんどが、日本語で知っている知識を英語で理解する作業でした。医療英語はラテン語からきているのでスペルも難しく、正直苦労しました。
看護師登録の応募が完了したらスチューデントビザから就労ビザに変更する手続きが必要です。 ビザを選ぶ時には永住目的でビザを選んだ方が将来的に有利です。 Skilled Independent Visa は申請から手続きの完了まで約9ヶ月かかります。認可されてオーストラリアに4年間滞在すると自動的に永住権が取れます。看護師登録の申請認可が下りた時期から動き始めましょう。手続きが長引いている場合はブリッジングビザに変更する手段もあります。またオーストラリアの私立病院では海外看護師のスポンサーになってくれる病院が多くあります。スポンサーが取れればビザがおりる期間も短縮され、仕事のゲットにもつながります。
私の場合、幸運なことに今の病院がスポンサーになってくれたのでブリッジングビザで半年ほど働き、Skilled Independent Visaの申請が通過した時点で病院の総務に届け出ました。仕事内容は全く変わりませんでしたが。
晴れてオーストラリア看護師登録が完了してビザの見通しがついたらいざ就活です。スポンサーを得る場合も、スポンサー無しで就活する場合も履歴書が必要です。オーストラリア一般に受理される履歴書は、まず自分の経歴をかいた履歴書にカバーレター(CV)をつけて提出するのが通常です。 履歴書には日本のように写真などの添付は不要です。簡潔明瞭に自己アピールができるように努めてください。CVは、なぜ自分が応募するポジションに向いているのかを文章にしてアピールするものです。履歴書では端的に書かれているスキルや実績などの内容を含めて、自分がいかにこの仕事に最適な人材かを表現します。
最初は履歴書作成からなんですね。職場探しの方法は?
オーストラリア最大の就活サイトJob Seek Australiaで探すと現在進行形で募集のある仕事を検索できます。 またオーストラリアにある病院の各ウェブサイトから、Employmentの項目を検索すると、募集されているポジションが公表されています。また看護派遣会社などに登録することで、高い時給で仕事をすることができます。私はスポンサーになってくれた病院の集中治療室で今も働いていますが、過去10年間の間、公立病院で救急の仕事もしました。オーストラリアでは1箇所に限らず複数の場所で仕事をする看護師も多く見られます。
次は面接です。 履歴書とCVを受理した採用者側から電話で面接の相談が来ます。面接の日時を双方の都合に会う日に設定します。オーストラリアの人々は大らかなので、「その日はちょっと」とか「来週の水曜日の一番都合がいいのですが」など、自分の都合をアピールしても全く構いません。この時から面接が始まっていると言っても過言ではありません。いわゆる面接のウオーミングアップです。フレンドリーに対応するよう心がけて、面接者が早くあなたに会ってみたいという印象を与えておくと、仕事ゲットの確率は上がるでしょう。
看護職の面接内容は、まず自己紹介から始まります。 自分の職歴や臨床実績を簡単に説明し、なぜこの職場で働きたいのか意思表現してください。その次は、面接者からクリニカルな質問をされます。事例を出してくる質問形式です。例えば、あなたの受け持ち患者さんが息をしていません、さてどうしますか?と言った内容です。ここでどれだけ知識があるかを判断されます。考えられる原因や可能な対処方法を知っている限り面接者に伝えましょう。面接結果は一週間以内に電話で面接者から通知が来ます。
冒頭でも少しお聞きしましたがオーストラリアの看護師の給料事情についてもう少し詳しくお聞きしてもいいですか?
オーストラリアで初めて看護の仕事に就いた最初の1年は卒後1年目の看護師と同じ給料から始まります。
オーストラリアでは卒後一年目をGraduate Year(Grade 1)といい、時給25ドル程度(2000円くらい)から始まります。 私立と公立の病院では給与設定が違うので確認しましょう。卒後2年目からGrade 2 year 1になり、卒後10年まで時給が上がり続けます。現在Grade 2 Year 10の場合、公立病院では時給44ドル(4000円)です。週末や祝日に働くとその1.5倍です。
ちなみに私はフルタイムで時給の低めの私立病院でGrade 2 year 10として働いています。子育ての関係で週末勤務が多いのですが、週に36時間(12時間勤務の週に3日の勤務)働いて、月に7000豪ドル(1豪ドルの値段は2019年9月時点で75円とか)いただいています。 ちなみにオーストラリアの看護師は2週間ごとにお給料が入ります。隔週に3500豪ドルのお給料が支払われるので、生活はとても楽です。
さらにサラリーサクラファイズといって、年間2万豪ドルほどの枠で、家賃や住宅ローン、食費や光熱費、外食費などをパッケージして、税金がかかる前の給与から差し引いてくことで税金を節約するシステムがあります。つまり、政府から見ると私の年間収入のうち2万ドルは税金がかかっていないというわけです。結果的にパケージをしない場合より手取りの給与が増えるというわけです。とても助かります。
週に36時間勤務で月給約50万以上となると確かに時給単価だと日本の2倍近くありますね。オーストラリアの給料が高いのは意外でした!
看護師Aさんよりメッセージ!オーストラリアで働きたい方へ
オーストラリアで看護師をし始めて11年目になりますが、大きなメリットになった1つに、仕事の仕方を自分で決められるという点です。 シフト希望はほぼ100%通ります。特に子育て真最中の人や親の介護をしている人など、諸事情をきちんと伝えておくと、必要な時に有給を取らせてもらえます。日本にいた頃に比べて、金銭面の余裕もあり年に1回は海外に旅行しています。3年前には一軒家も購入できました。オーストラリア人は働き方も大らかで、面倒臭いことは遠慮なく頼んできますのでそんな時にNOと言える勇気があればとても心地いいです(笑)。私の経験談を読んでもっと日本人ナースがオーストラリアに来て働いてくれることを祈っています。