1.透析で働く看護師の仕事内容とは?
腎臓の機能が10%を切った時、人は体内の余分な水分や老廃物を尿として排出することができなくなります。それを機械によって、人工的に正常な状態になるよう排出させるのが人工透析の役割です。命がかかった状況で、定期的に決まった時間、しかも半永久的に続けなければならない透析は患者さんの体はもちろん、精神的にも負担がかかります。その苦痛を支えるのが、透析看護師の役割で、知識はもちろん技術面においても高い専門性が求められます。ここでは専門的な分野である透析看護師について徹底解説します。透析関連の専門資格についてもご説明しますのでご参考下さい。
まず基本的な透析看護師の仕事内容からご説明しましょう。透析とは腎機能が低下し、尿による血液の濾過ができない患者に対し、機械を使って人工的に濾過を行うことです。腹膜を利用した腹膜透析もありますが、主流は人工血液透析が行われています。透析患者さんは、状態にもよりますが、週3~4時間の透析を週3回クリニックに受けに来ます。透析看護師の仕事は、主に透析機械の管理と、患者さんの状態管理になります。以下透析前後の看護師の業務をまとめてみました。
—-透析前の準備—
① 透析機械の準備
<ダイアライザー、抗凝固薬の準備>
それぞれ患者さんの病態、体格に合わせたものを医師が指示しています。透析看護師は、患者さん一人一人に指示通りのものを準備していきます。
<プライミング>
透析に使うラインやダイアライザーは、滅菌処理がされていますが、それでもごく小さな異物が回路内に残っていることがあります。それを洗い流すために生理食塩水で洗浄する作業<プライミング>を行います。回路の接続不良がないかの確認や、体の中に空気が入るのを防ぐ役割もしています。
②患者さんの準備
<体重測定>
体重測定は患者さんの状態にかかわらず、透析前に必ず行うため、車いす用や担架を吊り上げ寝たまま測れるものなどの種類があります。医師の指示したその患者さんにとって過不足の無い水分量<ドライウエイト>との増加分がその日の除水量になります。わずかな差でも誤った体重測定をしてしまうと、除水不足、または過剰な除水を行ってしまうため、壁に手をついていないか、余分なものを持っていないかなど確認することも重要な観察項目になります。また、透析日ごとの比較から増加傾向がみられれば、摂取水分が多くなっていないか、腎機能の低下から尿量の減少などもアセスメントし、生活指導やドクターへの上申なども検討していきます。
<バイタルサイン>
透析は200~300mlの血液を体外に出し透析機械にかけ、さらに除水作業も行うため、事前にバイタルサインの測定を行うことで、透析に耐えうる体調か確認します。
—透析中の看護—
①穿刺
透析患者さんは「シャント」と呼ばれる動脈を静脈に手術により吻合し、穿刺しやすい静脈内に血液を多く流すことができる透析専用の血管を作成しています。そのシャントに、16~18Gの太めの針を刺して、濾過のため機械につなげます。シャントは、透析を行うために必要不可欠で、異常があれば透析はできません。穿刺の前に発赤腫脹などの感染徴候はないか、シャント音、スリルといった十分な血流はあるかの確認も行います。
②透析機械の異常確認
臨床工学士が機械管理をしており、透析機械は異常時はアラームが鳴りますが、それ以外にも回路が絡まってしまっていないか、漏れはないか等、定期的に看護師も注意深く観察を行うことで、事故を未然に防ぐことができます。そのためにも、透析の仕組み、透析機械の理解が必要になります。
③患者さんの状態管理
定期的にバイタルサインの測定をし、急激な血圧低下や下肢のつれがないか確認していきます。また、透析を始めたばかりのころや、透析機械やダイアライザーの変更時などは、尿毒素がたまった状態から急激に血液が浄化され、脳圧亢進が進むことから<不均衡症候群>と呼ばれる頭痛、吐き気などの症状が起こりやすくなります。そのため、特に顔色や表情といったさらに細かな状態の観察が必要とされます。
—透析後の看護—
①透析機械の確認、血液回路の破棄
血液の浄化が終了したら、血液を体内にもどします。使用した回路は、感染に注意して破棄します。
②患者さんの確認
透析終了後もバイタルサインを測定して、再度状態を確認します。透析では、シャントという太い血管への穿刺、抗凝固剤の使用と、血が止まりにくい状態のため、止血の確認をしっかり行います。最後に、体重測定をして目標体重である<ドライウエイト>通り除水が行われたか確認をします。
上記で説明した以外に、透析看護師の仕事として、もう一つ重要なことがあります。それは生活指導です。透析を始める患者さんには、腎臓の役割から病気のこと、透析の方法など、基本的なことから患者さんに理解してもらう必要があります。透析はかかる時間も通う日数も長いので、透析治療自体を嫌になって透析を拒否してしまう患者さんもいますので、しっかりと患者さんの理解を得ることも大切です。途中で透析を辞めてしまうと水分も毒素もたまっていって、結局負荷の強い設定の透析をやらざるを得なくなってしまいますので、それは患者さん自身に負担がかかってしまうことになります。患者さん自身がどういう状態で透析が必要なのか、しっかり理解した上で続けてもらうことが大切ですね。
日常生活の注意点の指導も生活指導の一環で行っていきます。シャントをつぶさないようにシャントのある腕に重い荷物をかけない、シャントの腕で腕枕をしない等のシャントの管理、目標体重の<ドライウエイト>から体重が増えすぎないよう水分摂取量の確認や塩分やカリウムを制限した食事のとり方を伝える必要がありますね。患者さんと透析スタッフが力を合わせて続けていく透析治療という長い道のりが、できるだけ平坦であるためにも、余分な負担や苦痛がないようにサポートしていかなければいけません。
2.透析で働く看護師になるメリット・デメリットは?
①専門的な知識、技術が身に付く
これは上記でも触れた点ですが大きなメリットです。透析看護師には、透析の機械の知識、技術が必要不可欠です。毎日扱う機械ですので、知識と実践の両面から学ぶことができます。勉強会を開くクリニックも多く疑問もすぐ解消することができます。また、シャントへの穿刺技術も身に付きます。
②深夜勤なし、日曜休み、残業が少ない
透析患者さんは、状態にもよりますが、週3~4時間の透析を週3回クリニックに受けに来ます。だいたいは、月水金や火木土など一日おきで曜日も時間も固定されていますので、透析看護師の働く時間もその前後と固定されます。深夜勤なしで日曜定休というのが多く、残業も急変以外はありません。なので、自分自身の時間や家族との時間が作りやすく、看護師自身も体力的に楽になります。
③夜勤なしでも給与が高い
夜勤がないと給与が下がると思われるかもしれません。しかし、日常的に血液に接する頻度が高いため、給与が高めだったり、危険手当のある病院も少なくありません。また、ボーナスが4か月分なんて病院もあります。総じて給料が高い印象があります。
勤務形態:日勤のみ/完全週休2日制/年間休日113日(元旦休み)
就業時間: 8:00~16:15/11:30~19:45
基本給:220,000円(諸手当込みで総支給336,000円)
手当:資格手当:15,000円・精勤手当:5,000円・住宅手当:10,000円・調整手当40,000円、その他手当46,000円
加入保険:健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険
その他:別途交通費支給、賞与年2回(年2回4.8ヵ月)、昇給年1回、研修制度、退職金制度、従業員持株会制度、再雇用制度、研修制度、育児休暇あり
①血液を扱うため感染症のリスクがある
もちろん、感染予防のために、マスク、グローブ、ゴーグル、ガウンと必要な対策はするのですが、それでも、透析では毎日血液を扱い、その回数も多いため、感染症のリスクは一般病棟よりは高いと言えます。
②操作や技術のミスによる患者さんの負担が大きいため、プレッシャーがかかる
透析をするのに、なくてはならないシャント。その命綱である場所へミスなく穿刺することが求められます。失敗すれば、その患者さんは透析ができず、体内に水分や毒素がたまっていってしまいますから、即入院、即シャント手術が必要になります。また、透析機械の入力ミス、透析機械と患者さんをつなぐラインが外れてしまうなんてことがあれば、大量失血にもつながります。そんな環境で働くのですから、透析看護師にかかるプレッシャーは甚大と言えます。
③苦手スタッフ、患者さんとも顔を合わせ続けなければいけない
看護師も人間です。好きな人もいれば、苦手な人もいます。しかし、透析のクリニックという職場は、勤務形態がほぼ同じのため、同じスタッフと働き続けます。患者さんも、同じ曜日に週3回会うことになります。透析は半永久的な治療ですから、患者さんの引っ越しや腎移植による透析の離脱などでもない限り同じ方が通ってきます。
3.専門性が高いからこそ!透析で働く看護師に関する資格は?
<透析看護認定看護師さんのインタビュー>
私は総合病院の透析室に勤めていました。透析認定看護師の資格は「血液透析療法での通算3年以上の看護実績」が必要なため、ちょうど働いて3年たった時に職場の透析認定看護師をすでに取っていた先輩に勧められて、取得を目指しました。認定看護師養成センターの受験を6月に受けて、合格して10月から6か月透析認定看護師資格取得のための勉強をしました。他の分野の認定看護師を目指す方とも一緒にグループワークも交えながら、看護倫理や看護管理、リーダーシップなどの共通科目の勉強をしました。それから専門分野である透析の勉強が始まって、事例のレポートをまとめながら、試験も受けます。3か月目の1月から実習がはじまります。3事例を受け持たせていただいて、そのうちの1つをまとめて2月に研究発表しました。3月に卒業試験があって、認定看護師養成センターは卒業。本試験と呼ばれる、看護協会の認定看護師試験は5月に受けて、合格すれば資格取得となります。
普段から透析や腎機能、腎疾患については勉強していましたが、それでも教科書に出ている本当に細かいところまで勉強しましたし、求められましたね。もう、頭がフル回転という感じでしたが、学生として勉強するのは久しぶりで、なかなか覚えられず苦労しました。レポートも多く、体力的にきついというのは聞いていたので、最初から学校の近くに引っ越したり、できるだけ勉強に集中できる環境を作りました。本当につらく凝縮した6か月でした。クラスの子と愚痴を言い、支え合いながらの学校生活でした。資格取得の本試験は、もうひたすら過去問を解いて挑みました。でも、資格を取って。同じ資格をもつ仲間ができたこと、職場の透析認定看護師の先輩と同じ目線で、今までより深く透析に係われるようになったことは本当に私の財産だと思います。
今は、透析認定看護師として、外来の泌尿器科から透析導入になられる方の指導を主な仕事としながら、血液透析だけでなく腹膜透析や腎移植など治療の選択のお手伝いをしています。病院主催の腎臓病の講演会講師や執筆活動などの仕事もあり、看護師として活動の幅が広がりました。
<慢性腎臓病療法指導看護師さんのインタビュー>
私は、透析のクリニックに5年勤務していて、透析患者さんがほぼ一生涯向き合っていかなければいけない「透析」という治療を少しでも楽になってもらいたい、看護師という立場でより専門的に支えたいという思いで、慢性腎臓病療法指導看護師の資格を取ることにしました。
資格は、日本腎不全看護学会正会員歴が継続して3年以上あることが必要なので、まず日本腎不全看護学会正会員に所属をして、受験資格ポイントが30ポイント以上取得を目指します。ポイントの内容は、血液透析や腹膜透析など腎不全の看護領域で実践報告を3例提出するんですが、その内容でポイントの点数も違います。研修参加や学会発表なんかもポイントにありましたね。地方の人は研修や学会の会場が都心部が多いので、通うだけでも大変だと伺いました。そうして、受験資格ポイントが30ポイント以上たまったら資格試験を受けて、受かれば資格取得です。でも、5年更新の資格なのと、更新の際にもまた受験資格ポイントが必要で、更新の際には70ポイント以上となかなか厳しい条件なので、今も勉強の日々ですね。
今は慢性腎臓病療養指導看護師と呼ばれていますが、私がは資格を取得したときは透析療法指導看護師という名称でした。この資格の実際の看護業務内容が血液透析だけでなくて、腹膜透析、腎移植といった慢性腎臓病の全般にかかわるから平成29年に本腎不全看護学会から名称変更したようです。確かに、実際現場でも、血慢性腎臓病の方は、生活スタイルの違いから血液透析のみではなく、仕事の合間や就寝中も行える腹膜透析を希望される方もいらっしゃいます。腹膜透析には透析バックの交換を自分で行わなくてはならず、厳しい自己管理も求められますので、そういった方にも、きちんとリスクも伝えながら、その方の生活スタイル、希望に沿った提案を専門的に行えるように頑張っています。患者さんと新しい治療の道を一緒に歩き出せた時なんかは、この資格をとってよかったと心から思えますね。
[speech_bubble type="rtail" subtype="L1" icon="58.jpg" name="転職相談I子"]はい!色々とありがとうございました!
透析看護師は大きい病院でも活躍機会がありますし、比較的小さな専門クリニックでも雇用はあります。実際に検索すると割と多くの求人を見つけることができるので、もし本気で透析看護師へ転職したいのであれば、マイナビ看護師などの大手を看護師転職エージェントを上手く活用しましょう。「給料いくら以上の透析クリニック」「完全週休二日・日勤のみの透析クリニック」など希望の条件を転職エージェントのキャリアアドバイザーに伝えることで、個々に合った透析看護師の求人を紹介し、転職活動自体もフルサポートしてくれます。