老健施設とは、正式には「介護老人保健施設」のことで、病院での入院治療を終えた高齢者の方が家庭への復帰を目指す施設です。入所する方それぞれにケアプランが設定され、リハビリを中心として、食事、入浴、排泄などの介護サービスを受けられます。老健施設の施設基準としては介護保険法に基づく開設許可が必要であり必要な医療の提供は介護保険で給付されます。また、人員基準(入所定員100名当たり常勤医師1名、看護職員9名、介護職員25名など)が定められています。ここではそんな老健施設の看護師の仕事内容などについてまとめていきます。
私は今年40歳で都内の総合病院の病棟で2交代勤務をしながら勤務しています。月収は、夜勤手当などを含めて手取りで約30万円くらいで、夫、子供2人(小学生3年生と6年生)の4人家族です。年齢的に体力的にも勤務がきつくなっているので転職を考えています。知人から、老健施設での勤務はきつくないと聞いたことがあるので老健施設への転職はどうでしょうか?老健施設での看護師はどのような業務があるのかなど教えて下さい。
看護系の大学や看護専門学校を卒業すると、いろいろな看護技術を学びたいという思いから病院に就職される方がほとんどですよね。でも転職相談N美さんみたいに年齢的な問題や、また結婚や子育てなどで家庭が忙しくなり、看護師としての働き方を見つめなおした結果、老健施設へ転職する方もいらっしゃいます。
老健施設の入所者は65歳以上で要介護1以上の高齢者とかそんな感じでしたよね?高齢者に接するのは慣れているので転職してもスムーズに仕事に入っていけるとは思っています。
老健施設の入所者さんの基準は「65歳以上で要介護1以上の高齢者」で合ってますね。「
特別養護老人ホーム・介護老人保健施設に おける看護職員実態調査」から抜粋して詳細データをお伝えしておくと、
介護老人保健施設の利用者の割合の年齢分布は、40~64歳(1.9%)、65歳~74歳(7.6%)、75歳~84歳(29.6%)、85歳~94歳(48.7%)、95歳以上(12.2%)、要介護別では、要介護1(10.4%)、要介護2(17.7%)、要介護3(23.9%)、要介護4(26.5%)、要介護5(19.5%)となっています。「65歳以上で要介護1以上の高齢者」と言っても様々な人が利用しています。
75歳以上の方が大半を占めているんですね。要介護別では大きな偏りはありませんね。病院に入院している患者さんで、退院後に老健施設へ入所する方も多くいますので、なんとなく入所者さんのイメージは湧きます。老健は病院とは違って入所している方々が快適に暮らせることが求められると思うので、高齢者とのコミュニケーション能力も大切となりそうですね。
老健施設のイメージは湧いてきました。老健施設での看護師は、具体的にどのような業務内容がありますか?必要なスキルも教えて下さい。
まず、老健施設では、基本的に治療を行う施設ではありません。ですので転職相談N美さんのように看護師経験が豊富な看護師は、老健施設での業務にそれほど大変さを感じることはないと思います。
バイタルチェックや服薬管理などが中心で、経管栄養(胃瘻栄養)管理、褥瘡処置やストマ処置などの医療ケアが必要な方も中にはいますが、病院での業務に比べると穏やかなものです。もちろん採用される施設によって看護業務は異なると思いますが、私が昔担当した看護師さんが老健施設へ転職したので、その方の日勤帯1日のスケジュールを例として紹介しますね。その老健施設は、7:00~16:00までの早番、8:30~17:30までの通常日勤、10:00~19:00までの遅番、17:00~翌日9:00までの当直勤務に分かれていたそうです。当直は看護師1名、介護士2名で対応し、入所者の容態が変化した場合には、常勤医師への報告も必要となるそうですね。
時間 | スケジュール | 業務内容 |
8:30 | 出勤 | 情報収集・夜勤者からの申し送り
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9:00 | 業務開始 | バイタルチェック(⇒異常がある場合は医師への報告)・創傷処置や褥瘡処置などの医療ケア・おむつ交換(介護士と)・入浴できない入所者の清拭(介護士と)
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12:00 | 入所者の食事
| 食事介助・経管栄養/胃瘻栄養の投与・食前食後にインシュリンが必要な場合は血糖チェックを行いインシュリン投与・食前食後の内服投与・食後の口腔ケア(※食事介助や口腔ケアはSTも介入、勤務者は交代で昼休憩)
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13:30 | 入所者リハビリ | リハビリ中のフロア(入所者)確認 |
15:00 | レクレーション | レクリエーション中のフロア(入所者)確認・レクリエーション参加以外の看護師は翌日の内服薬準備と午前中のバイタル異常者のチェック
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17:00 | 夜勤者への申し送り | |
17:30 | 退勤 | |
上記が日勤帯の看護師の大まかな1日の流れです。冒頭でも述べたように、老健施設では入所者100名あたり介護職員25名に対し、看護師は9名と配置基準が少ないことが現状です。治療そのものはありませんが、医療ケアが必要な入所者もいるので看護師は絶対的に必要な存在となります。
医療ケアが必要な入所者がいることはわかりましたが、それ以外に看護師が必要とされていることにはどのような点があるのでしょうか?
老健施設の入所者は状態が安定しているとはいえ、高齢者の入所施設です。容態が急変したり、慢性疾患が悪化し緊急性を要することも少なくありません。そのような状態になった場合、医師への的確な報告が必要であり、特に夜間や休日では看護師によって救急搬送の必要性を判断しなければなりません。ですので病院勤務での経験が豊富でアセスメント能力が高い看護師の需要は高いのです。
なるほど・・・病院勤務で経験したアセンメント力と技術が生かせるわけですね。
はい。あとは、入所者の看取り、感染対策等の家族への説明、入所者の一時帰宅の調整、介護事故予防対策の立案、排泄支援なども看護師が行うと思っていいかもしれませんね。感染対策や安全対策については老健全体で意識が高まってきているので特に意識している施設は増えてきていると思います。
看護師が老健施設で勤務するメリットとデメリットがあれば教えて下さい。
老健施設には病院ほど医療ケアが必要な入所者はいません。また、食事介助や入浴介助、排泄介助のほとんどは介護士が業務を担っていますので、初めて老健施設で勤務する看護師は、「えっ、こんな業務でいいの?」と思うかもしれません。病院勤務とは違って、時間がゆっくり過ぎていく感じです。その上で老健施設で勤務する上でのメリットとデメリットを説明しますね。まずはメリットからです。
メリット①:残業が少なくワークライフバランスが整いやすい!
やはり、一番のメリットと言えばワークライフバランスが整いやすいということです。病院で勤務していると残業があるところも多いですが、老健施設では、1日にスケジュールが決まっていているので残業は無いと言っても過言ではありません。定時に帰ることができるので、ワークライフバランスが整いやすく、子育てをしているママナースには向いています。
メリット②:病院よりも長期利用者が多く、業務時間も余裕があるため入所者とじっくり向き合える
病院では、出勤すると情報収集に始まり、申し送り、検温、処置、医師の指示受け、ナースコール対応などなど、数えきれないほどの業務があり、じっくりと患者さんと向き合い話をする機会は少ないですよね。一方で、老健施設では比較的時間に余裕があるので、入所者とじっくり向き合いながら話ができて入所者の状況を把握することができます。一人ひとりの状況が把握できることで、容態の変化にいち早く気づくことにも繋がります。あと入居者の平均在所日数も病院より長いので同じ利用者さんと長く付き合えます。これらはメリットと言えるでしょう。
メリット③:業務内容はシンプルなのでブランク明けの復職には向いている
老健の看護師の仕事はバイタル測定やお薬のサポートなどの健康管理が主になるため、しばらく現場を離れていた看護師さんなどには人気です。いきなり復職で二交代の病棟に行って疲れ果ててしまう看護師も多いので、復職予定の看護師には理想的な職場かもしれません。
メリット④:介護現場でのスキルアップができる
病院看護師と介護施設の看護師は、業務内容や求められるものは異なります。今後高齢化社会がさらに進展し介護施設の需要が上がっていく中で、病院ではなく介護施設でのキャリアアップをしていきたいという人には老健勤務で経験を積むのはメリットでしょう。
病院勤務だと残業することも多いですが、老健施設ではワークライフバランスが整いやすいんですね。私たちのような子育てしているナースには魅力的です。また、入所されている方とゆっくりお話しできるのであれば、高齢者とのコミュニケーション力も高まりそうですね。確かに復職を目指す潜在看護師にもいいですね。デメリットについてもお願いします。
デメリット①:最新技術のスキルアップが難しい
老健施設でも医療ケアがあることはありますが、老健施設での医療ケアは、バイタルチェック、服薬投与や褥瘡処置、経管(胃瘻)栄養投与やストマ処置などです。このような医療ケアは、病院で経験したことがある看護師にとって当たり前にできるケアです。日々進歩している病院での医療ケアですが、意識的に学ぶ機会を作らない限り、最新技術のスキルアップが難しいことがデメリットの一つです。
デメリット②:責任が重くなることもある
老健施設には、看護師、介護士、リハビリスタッフ、介護支援専門員などが勤務しています。施設によって違いはありますが、それぞれの業種に所属長がいる施設もあれば、看護師が全体の管理者という施設もあります。看護師は全体のリーダーになることも多く、例えば入所者の容態が急変した際には、看護師が判断し医師への報告や救急要請などの対応をしなければいけません。また、施設内の感染対策や安全対策といった業務は、看護師が責任者となることもあります。
デメリット③:医師や看護師や介護スタッフとの人間関係に疲弊することも
老健には配置基準があり常勤医師、看護職員、介護職員などがいて、特に介護スタッフとの人間関係に悩む人は多いです。老健の看護師と介護スタッフは仕事の内容の線引きがあいまいな職場もあって「これは介護士さんの仕事でしょ!」と揉めることもあるようです。職場の雰囲気や個々のコミュニケーション能力によりますが人間関係に疲弊する人もいます。
デメリット④:給料面は恵まれにくい
これは後述しますが、病院看護師と比べると給料が下がるケースが多いです。
医療技術のアップデートができないのは確かにデメリットかもしれないですね。でも私くらいの年齢であればまあキャリアアップという感じでもないのでいいのかなあと。あと全体のリーダーとなることは、責任感が強くなければいけないですね。看護師だけではなく介護士やリハビリスタッフと連携も大切でしょうし、これはデメリットというよりは自分を成長させるのにいいのかと思いました。最近では、病院以外の施設でも多職種連携が必要となっていると聞きますし、老健施設は入所者さんの生活の場でもあるので、感染面や安全面のためにも業種の垣根を超えたチーム連携はとても大切ですね。人間関係には細心の注意を払って円満に仕事ができるようにしたいですね。
上記のデメリットにありましたが、老健施設での給料の相場でどのくらいなのでしょうか?業務が病院より緩い分、給料が下がるとは予想できますね。子供もこれからお金もかかるので不安です。
給料面も気になるところですね。「
介護施設等における看護職員に求められる役割とその体制のあり方に関する調査研究事業報書」に、病院と老健施設の看護師の給料を年齢別に比較しているデータがありますので紹介します。このデータは母数が400程度の調査なのでそんな大きな調査ではないですが一つの目安にはなるでしょう。また数字は総支給月額なので、これから所得税、健康保険料、住民税などが差し引かれるので、手取りとしてはこれより4~5万円程度低くなると思って下さい。
| 病院看護師 | 老健看護師 |
24歳以下 | 297,596円 | 254,304円 |
25~29歳 | 322,787円 | 266,641円 |
30~34歳 | 330,422円 | 306,824円 |
35~39歳 | 357,238円 | 289,285円 |
40~44歳 | 381,514円 | 307,942円 |
45~49歳 | 393,883円 | 336,722円 |
50~54歳 | 382,309円 | 332,573円 |
やはり、どの年代でも今よりは給料が低くなるんですね・・・。病院看護師の方が年齢と共に管理職などになるからなのか年収は上がっていっていますね。
やはり総じて言えば病院看護師の方が老健看護師よりも給料が高くなりがちです。しかしデータはあくまでも全国平均を表していて、東京都は老健でも比較的給料は高い方なんですよ。オンコール手当・夜勤手当なども高い施設があることも事実です。例えばある求人サイトの都内にある老健施設の求人で下記のようなものがあります。
・基本給:200,000~260,000円(諸手当込みで総支給320,000~380,000円)
・資格手当:20,000円
・精勤手当:5,000円
・住宅手当:15,000円
・夜勤手当:20,000円×4回/月
・別途交通費支給、賞与年2回、昇給年1回
どうでしょうか?結構、手当が充実していると思いませんか?看護師経験年数で基本給は変動しますが、転職相談N美さんのような経験年数が長い看護師ほど基本給は高くなります。
また東京都内の老健施設では多くが2交代制を取り入れており夜勤手当が12,000~20,000円という施設が多いです。賞与が3.5~4ヶ月という施設もあり、正規雇用で採用されれば年収で換算すると400~500万円も望めるということになります。
ただ正規雇用でなく、パートなどの非正規雇用となると基本給があるわけではなく、時給換算になります。非正規雇用者の場合、時給で見てみると1,600~2,000円が相場というところです。ほとんどの施設で、パートでの勤務は日勤のみで、諸手当も出ないことが多いのがネックですね。年収をある程度考慮して働くとなると、正社員で勤務することをお勧めします。
なるほど・・・。正社員になるとこんなに手当てが厚いとは改めて見るとすごいことですね。でもこのくらい給料がもらえると家計にはほとんど影響ないと思うので安心しました。これまで主人の協力もあって病院でも夜勤をしているので老健施設での夜勤は可能ですので。
頼もしいご主人ですね。女性看護師の場合、お子さんがいらっしゃる方には夜勤は可能か?など面接で聞かれることもあります。ご家族の協力が得られるのであれば、正社員となることは難しくありませんね。
福利厚生はもちろん施設により様々で、年間休日日数で言っても週休2日制や4週8休など施設ごとに異なります。ですが有給休暇や慶弔休暇、産前・産後休暇、育児休暇、介護休暇、夏季・冬季休暇、通年で取れるリフレッシュ休暇を取り入れている施設がほとんどです。また、健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険 などの社会保険も完備されているほか、2~5年勤続で退職金がもらえる施設が多いです。マイカー通勤者には無料駐車場や駐車場料金の補助がある施設もあります。保養所を持っている施設もあり、休日は家族と一緒に保養所を利用することもできます。また、施設外研修制度が充実している施設や、クリニカルラダーの活用やOJTが導入されている施設もあり、初めて老健施設で働く看護師にも一人ひとりに合った勤務環境も整備され始めています。
へーっ!老健施設でも、クリニカルラダーの活用やOJTをしているんですね。そのような研修制度があると、私のような老健初心者にはとても助かります。キャリ姉さん、いろいろ教えていただきありがとうございました。
看護師が老健への転職を成功させるポイント
超高齢化・少子化に向かって進む人口構成の中で、高齢者が利用する「老健施設」での看護師の需要は高まる一方です。老健看護師の求人はご自分でコツコツ探すこともできますが、手っ取り早いのが転職エージェントを活用することです。そこでは、キャリアアドバイザーのサポートも受けられますし、数ある中の老健施設を比較することもできます。マイナビ看護師などの大手を看護師転職エージェントを複数使うことで、ご自分の環境に合った老健施設がきっと見つかるはずです。まだ看護師転職エージェントを利用していない方は初回無料登録からお進み下さい。