訪日外国人の増加とともに注目されているのが「医療インバウンド」という「日本の病院で外国人患者の受け入れを進める取り組み」です。日本の高度な医療を世界に知ってもらうだけでなく、日本にも大きな経済効果をもたらすと言われる医療インバウンドに興味をもつ看護師もいるのではないでしょうか。今回は、医療インバウンドに関わりたいと思う看護師が知るべきことと転職方法などについて解説します。
1,医療インバウンドとは?なぜ医療インバウンドが注目されるの?
医療インバウンドとは、日本で医療を受けるために来日する外国人患者の受入が円滑に行われるような取り組みのことで、推進事業は経済産業省など国をあげて行われています。医療インバウンドは、世界に日本の高い医療レベルを知らせること・国内の医療技術の向上も目的として含まれています。医療インバウンドの分野としては、健診・人間ドッグ・がんや心臓病などの治療・歯科治療などがあります。日本で医療を受けるには「医療滞在ビザ」が必要となり、国はこのビザを活用して渡航受診者の受け入れ促進を図ろうとしています。医療滞在ビザの滞在期間は最大1年、90日を超える場合には入院が前提となります(参照URL)。
日本の医療インバウンドが外国人に注目される理由として、医療先進国である日本で高度な医療を受けられることが挙げられます。そしてとくに外国の富裕層を中心に受け入れられています。さらに外国では医療制度の仕組み上、すぐに医療を受けられない状況もあり、それを解消するために来日して医療を受けることができ、治療を受けるまでの期間を短縮できるというメリットも注目されています。
2,医療インバウンドの流れ
海外在住の外国人が、日本での渡航受診を受けるまでの流れの一例を説明しましょう。まず海外にいる外国人は、以下のJIH(Japan International Hospitals)のサイトから希望する医療が受けられる病院を選択するのが一般的なようです。
一般社団法人Medical Excellence JAPAN :
JAPAN Hospitals Search(ジャパンホスピタルサーチ)
http://www.japanhospitalsearch.org/jp/
そのあと「医療渡航支援企業」を通して受診の申し込みをします。この医療渡航支援企業とは、外国人に対して来日する前から帰国までの医療渡航滞在期間中のトータルサービスを支援する事業者のことです。医療渡航支援企業は以下のようなサービスを行います。
・医療情報の提供など受入医療機関のコーディネート
・医療通訳(多言語に対応する)
・カウンセリング
・来日の際の宿泊先や交通の手配
・医療機関への支払いを代行する
医療渡航支援企業となるには、ガイドラインの基準を満たしMEJ(一般社団法人Medical Exellence JAPAN)からの認証を受ける必要があります。2020年1月現在では認証医療渡航支援企業として以下の2社があり、さらに準認証医療渡航支援企業として1社があります。
(認証医療渡航支援企業)
株式会社JTB ジャパン・メディカル&ヘルスツーリズムセンター(JMHC)
http://www.japanhospitalsearch.org/jp/
日本エマージェンシーアシスタンス株式会社
http://www.japanhospitalsearch.org/jp/
(準認証企業)
株式会社アイセルネットワークス
http://www.japanhospitalsearch.org/jp/
3,看護師が働ける医療インバウンドはどこにあるの?看護師に求められる役割は?
看護師としても医療インバウンドに関われる仕事をしたいと思う人もいるでしょう。医療インバウンドを推進している病院を探すには、「ジャパンインターナショナルホスピタルズ(JIH)」を検索してみましょう。このJIHとは、日本で診療や健診・検診を希望する外国人のために、渡航受診者としての受け入れに意欲的な病院のうち基準を満たす病院をさします。2020年1月20日現在では、全国で21都道府県、48病院が指定されています。それぞれの病院で対応できる疾患や診療科目をリストでみることができます。さらに、愛知県や徳島県など自治体でも医療インバウンドを推進しているところがあります。
医療インバウンドに積極的な病院では、渡航受診する外国人に関わる看護師に次のようなスキルや役割を求めているといえます。
・臨床経験・専門的知識と技術
・語学力
・医療コーディネーターとしての役割
・ホスピタリティ
・相手のニーズを捉えてそれに応じる医療サービスを提供できるかどうか
・多言語の契約書・同意書・検査内容説明書の対処
実はこのような役割を担う「国際医療コーディネーター」という職種がありますが、90%の医療機関が一度も利用していないという調査もあります。実際には病院の職員が対応したり、外国人患者の日本在住の家族や知り合いが仲介することが多い傾向があります。病院では国内の患者対応による人手不足や外国語を話せる医師や看護師の不足もあるともいえるでしょう。これから医療インバウンドがより浸透すると、医療コーディネーターの役割を担う看護師の人材が求められているといえるでしょう。
医療インバウンドを推進する病院に転職したいと思ったら、まずは前述のJIH登録施設を探したり、自治体で取り組む愛知県や徳島県などの病院を探したいりするのも一つの方法です。さらに転職サイトに登録をして、国際診療部などの募集を探すのも良いでしょう。転職を有利にするためには、外国語の習得・医療コーディネーターの資格習得・医療通訳士の資格習得などもおすすめします。
国立国際医療研究センター(NCGM)では、厚生労働省の医療通訳育成カリキュラム基準に基づいた「医療通訳研修」を実施しています。これらの研修に参加するのも転職を有利にさせる要因になります。
医療インバウンドは今後ますます注目される分野です。医療インバウンド推進の効果として、経済的な効果も期待されています。株式会社日本政策投資銀行の調査によると、2020年の時点で年間43万人程度の需要が潜在的にあると見込まれ、市場規模は約5,500億円、経済波及効果は約2,800億円と試算されています(参照URL)。このようなトレンドの中で、看護師として日本のインバウンド医療に携わることは、国際的にも貢献できる大変やりがいのある仕事といえるでしょう。地方の自治体で取り組むところもあり、地方Iターンの転職先としても十分検討できると期待できます。