看護師として働く仕事場は、今や病院やクリニックなどの医療機関だけではありません。病院以外でも活躍する看護師もたくさんいます。今回は、誰もが一度は乗船したいと憧れる「豪華客船」で働く看護師、いわゆるシップナースの仕事について紹介します。
豪華客船で働くシップナースとは、その名の通り豪華客船に乗り船上で働く看護師です。豪華客船に乗船しているお客様や乗組員の健康を管理し支援を行うことが主な仕事になります。客船には船医と看護師が乗船していますので求人は存在しますが、募集人数は限られますので求人探しのハードルの高さには覚悟が必要です。ここでは公募されている求人探しや給料調査などを行ってみましたのでご参考下さい。
1.日本国内で豪華客船を運航している会社は?
豪華客船は一般的にはクルーズ客船ともよばれます。なかなかクルーズ客船に乗る機会はないかもしれませんが、日本船社が運航するクルーズ船が日本の港湾へ寄港した回数は1,015回(前年比+約35%)と相当数のクルーズが行われています(参照URL)。ちなみにクルーズ船で日本に入国した外国人旅客数は244.6万人なのでこれも含めると相当のクルーズ船が日本と関係して運航していることになります。
国内で客船を運航しているのは2019年現在で調査すると4社のみとなっており、以下の会社が運航しています。看護師の募集については調査してみましたが残念ながら、各会社で何名看護師が働いているのかの公式な資料は見つかりませんでした。しかし看護師の仕事はおそらく医務室勤務となり各船に看護師は1〜2名ほどではないかと予測されます。
・郵船トラベル株式会社(飛鳥Ⅱ)<URL>
飛鳥Ⅱは全長241mで乗客定員は872名の日本最大の客船です。乗客一人あたりのスペースが世界的に見ても広く保たれており、ゆったりとクルージングができます。
・商船三井客船株式会社(にっぽん丸)<URL>
全長166.6mのにっぽん丸は2010年に改装されて、乗客定員は524名。「海の上で過ごす贅沢な大人の時間」が過ごせるように工夫されています。
・日本クルーズ客船株式会社(ぱしふぃっくびいなす)<URL>
「洋上の楽園」と言われるぱしふぃっくびいなすは、手頃な料金が人気の全長183.2m、乗客定員620名のクルーズ船です。
・株式会社せとうちLTKトラベル(ガンツウ)<URL>
2017年に就航した新しい日本のクルーズ客船です。全長81.2m、旅客定員は38名、乗組員が46名の船ですが、富裕層を対象にしており、19の客室のみです。一泊一室30万円〜と高額となっています。
補足として海外の豪華客船も代表的なものをいくつか紹介します。こちらで日本の看護師が働くには上記の4社の看護師募集で採用されるよりもさらにハードルが高いでしょうが、人材がグローバル化していく中で可能性も0ではないかもしれません。下記二社はいずれも超がつくほどの豪華客船ですから、もちろん医務室は整備されているでしょうし、限られた設備の中で医療や看護ケアを行う環境であることは変わりはないでしょう。
・ロイヤルカリビアン社(オアシス・オブ・ザ・シーズ)<URL>
本社はアメリカにあり、世界最大規模の客船会社で、世界最大の客船3隻を運航しています。世界最大と言われる豪華客船オアシス・オブ・ザ・シーズは全長361m、18階建ての洋上の都市と呼ばれ、3つの巨大シアターや7つの街があり、乗員乗客合わせて最大8,000名以上が乗船することができます。
・カーニバル・コーポレーション(クイーン・メリー2)<URL>
クイーン・メリーはイギリスのクルーズ客船です。全長345m、乗客定員数は2,681人・乗組員は1,292人という、当時は史上最大の客船と言われていたようです。
2.豪華客船看護師(シップナース)の仕事内容は?給料は?
具体的に国内企業で豪華客船看護師(シップナース)の募集・求人が出ているところや、海外の大手の豪華客船はおわかりいただけたかと思いますが、では船上で働くシップナースの仕事内容は具体的にどのようなものでしょうか?
シップナースの仕事は、想像はつくかと思いますが、医務室における医師の診察介助が主です。主には体調不良・船酔いや怪我などの応急処置、そして乗組員の健康管理も大切な仕事になります。急病などの緊急時には、状況に応じて近くの国への緊急入港もあり、それらの病院手配なども仕事に含まれます。また各船には薬剤師はおらず、そのため薬の管理も医師や看護師の仕事となります。ちなみに法律によって医薬品を乗客に渡すことは船医の処方なしにはできないことになっています。この他にも乗組員への救命講習の開催なども行うようです。もちろん、日中の対応だけでなく24時間対応体制になることも、シップナースの特徴ともいえるでしょう。
ちなみに「船舶に乗り組む衛生管理者(船舶衛生管理者)」という資格があります。これは船員法にある資格の一つで、船員の健康管理や保健指導、検疫への立会い、水質検査、害虫駆除などを行います。船舶衛生管理者になるには試験に合格する必要もありますが、看護師・保健師などは「同等以上の知識・技能を有すると認定する者」とされ、試験を経ずに資格を得ることができます。
豪華客船看護師(シップナース)の求人探しは難しい!探す方法は?具体的な給料は?
豪華客船看護師(シップナース)の国内での募集を直近で調べた限りでは、現在公的に募集が出ている豪華客船看護師(シップナース)の求人はありませんでした。日本が運航している客船は少なく、働く看護師がいても欠員が出ないと募集も出ないのがその理由でしょう。そのため、不定期に求人が出ていることが考えられます。採用があるかどうかを知るためには、直接運航会社に問い合わせをする・主な看護師転職サイトに登録しておいて、担当者に求人が出たら教えてもらうなどの対策が必要でしょう。豪華客船看護師(シップナース)の募集が出てこなかったということで、給与事情についても確認できないため詳細はわかりませんが、転職サイトへ登録すれば具体的な情報が出てくるかもしれません(給料に関しては情報が出次第更新予定)。
3.豪華客船看護師(シップナース)に向いている人とは?
憧れるけれども狭き門である、シップナースですが、どんな看護師が向いているのでしょうか。基本的には限られた資源の中で働く看護師のようなスキルが求められているといえます。具体的にみていきましょう。
1.限られた設備の中で年齢問わずあらゆる症状に対応できる
客船には子供から大人、高齢者まであらゆる年代の人々が乗船します。そのため、小児科や婦人科などあらゆる科の疾患に最低限対応できる能力が求められます。また限られた設備の中で船医と協力して最大限の対応ができる判断力や臨床経験値も必要です。
2.一人で広い範囲の看護ケアが実施できる
客船の医務室では、主に看護師1名対応が基本です。そのため、船医の協力があるとしても、一通りの看護ケアを行う必要も出てきます。限られた医療器具や備品の中で、いかに適切なケアが提供できるかの判断が求められます。
3.協調性・柔軟性がある
船という陸上とは異なる空間の中で、しかも医務室で船医と働くとなれば、他のスタッフとの高い協調性も必要です。さらに、天候やトラブルなど、いつどんな想定外のことが起こるかわからない状況の中で、マニュアルにはない柔軟な考えで行動できる力も求められるといえるでしょう。船医との連携だけでなく、他の乗組員とも密に連携し、航海を無事に全うできるよう協力的に動く柔軟性も大切です。
4.英語ができる
船員の中には外国人もおり、さらに緊急時には各国の病院などと連絡をとることもあります。そのため、意思疎通ができ、医療現場でも使える英語力が必要といえます。とくに外国の豪華客船で働く場合には必須といえるでしょう。
シップナースは豪華客船に乗れるという非日常を味わえたり、各国への旅を楽しみながら仕事ができるのも魅力です。しかし、看護師としては船上という限られた設備の中で、船医と協力していかに目の前の患者さんに最善の医療や看護ができるか、その知識や技術を磨くことができるかが重要です。また主に一人体制で航海中は毎日24時間対応での勤務になることを想像すると、決して夢のような仕事ではないのかもしれません。ただ、病院勤務とはまったく異なる船上という環境で働けるのは、貴重な経験ができるのは確かです。
日本の運航会社の求人に応募して就職するにしても、海外の運航会社の求人に応募して就職するにしても、シップナースの仕事は狭き門であることには間違いありません。狭き門と承知の上で、シップナースにチャレンジしたいという人は、まずは募集があるのかどうかを調べて積極的に就職活動をすることをおすすめします(直近では公的募集はなさそう、給料の件と含めて随時更新予定)。
また、シップナースの応募がなくとも、いずれ募集されることを見越して、シップナースに求められる総合医療や救急医療などの経験を、他の医療機関や場所で働いて積んでいくこともシップナースとして働く夢をかなえる準備になるともいえるでしょう。