日本の人口の高齢化が年々顕著化している中、刑務所における高齢化に伴う問題も多くなってきています。国内の60歳以上の受刑者の数は、過去10年間で7%増加し、刑務所人口全体のほぼ20%を占めています(参考URL)。これは米国の6%、韓国の11%に比べても高い数字です。そんな中で、受刑者たちの健康状態を少しでも長く保ち、慢性疾患の予防をするためには、刑務所で働く看護師資格保有者(以下「刑務所看護師」と記載)の役割が大きく関わってきます。ここではそんな刑務所看護師の求人が出ている施設や仕事内容や必要スキル、給料などを解説します。
1.刑務所看護師の仕事場所は?
刑務所看護師という言葉は一般的ではないかもしれませんが、「刑務所看護師=刑務所に関わる看護師資格保有者」と定義するならば、刑務所看護師が働く場所は、刑務所内の診療所あるいは医療刑務所となります。刑務所看護師は国家公務員に位置付けられ、法務技官看護師と呼ばれています。日本国内には合計62箇所の刑務所が各地域に存在しています。 医療刑務所は4箇所です。例えば関東エリアであれば以下のような刑務所関連施設があります。求人は希少ですが仮に求人が出た場合もこれらの施設から求人が出ます。
横須賀刑務支所 | 神奈川県横須賀市長瀬3-12-3 |
横浜刑務所 | 神奈川県横浜市港南区港南4-2-2 |
喜連川社会復帰促進センター | 栃木県さくら市喜連川5547 |
黒羽刑務所 | 栃木県大田原市寒井1466-2 |
市原刑務所 | 千葉県市原市磯ケ谷11-1 |
水戸刑務所 | 茨城県ひたちなか市市毛847 |
千葉刑務所 | 千葉県千葉市若葉区貝塚町192 |
前橋刑務所 | 群馬県前橋市南町1-23-7 |
栃木刑務所 | 栃木県栃木市惣社町2484 |
八王子医療刑務所 | 東京都八王子市子安町3-26-1 |
府中刑務所 | 東京都府中市晴見町4-10 |
刑務所内の診療所
受刑者の健康状態をアセスメントするのが刑務所看護師の役割です。身体的な面だけではなく精神面のアセスメントを行います。一般的に、刑務所看護師だけで受刑者に対応することはなく刑務所員が必ず同行しているようです。刑務所は全国の都道府県にまたがって合計62箇所あり、それぞれ受刑者の収容人数も違います。
医療刑務所
医療刑務所はいくつかの専門診療科が設置されている医療刑務所もあり、入院が必要な受刑者に医療・看護サービスを提供しています。ここでの刑務所看護師の役割は、一般病院での看護師の役割とほぼ同じです。一般の病院との違いは、刑務官が配置され、受刑者の監察が常に行われていることです。入院している受刑者も時間ごとに一日のスケジュールがあります。そんな中で医師と連携して看護師は一般看護を提供します。医療刑務所は八王子医療刑務所、岡崎医療刑務所、大阪医療刑務所、北九州医療刑務所の4施設です。
2.刑務所看護師の仕事内容や必要なスキルは?
刑務所看護師の仕事内容としては以下のようなものが考えられます。
刑務所診療所
- 軽い怪我や病気の手当て
- 慢性疾患のモニタリング
- 必要時の終末期または緩和ケア
- 薬物離脱症状の緩和治療(主に薬剤の投与)
- 緊急を要する病状や怪我への対応
- 定期健康診断
- メンタルケアおよび精神疾患の管理
- 必要時の専門医療のコーデイネート
医療刑務所
- 一般看護
- 服用薬や点滴の投薬
- 精神看護(薬物離脱症状や摂食障害に関する看護、自殺企図の予防や対応など)
- 高度医療設備が必要な場合の転院の手続きや準備
必要なスキルについてもまとめてみました。刑務所看護師は独特な仕事ですので求められるスキルも一般病院の求人とは異なります。
1)特殊なコミニュケーション能力
一般的に看護師が日々の看護の経験の中で培っていくコミュニケーション能力は、個人差はあれども、高いものがあります。しかし、受刑者とコミュニケーションをとる場合少し特殊なコミュニケーションが必要になります。受刑者の中には薬物やアルコールからくる2次性精神疾患を持っている人もいて、不定愁訴を頻繁に訴えては、鎮痛薬などの薬を求めてくることもあるようです。また精神疾患を装って向精神薬要求してくる受刑者も見られるようです。したがって、ほんと不調を訴えているのかそうでないかをコミュニケーションから見極めができる能力なども必要になるようです。
2)幅広い医療の知識
先にも述べたように、全国の受刑者の高齢化が進んでいるため、慢性疾患を抱えて受刑しているものが多くなってきています。心臓血管系・慢性腎臓疾患・慢性呼吸器疾患・慢性肝疾患・脳梗塞など生活習慣からくる慢性疾患に関する予防対策や、疾患を抱えたままでもなるべく健康な状態で刑期を終えられるようにケアを提供できる幅広い知識が必要です。またHIVやB型あるいはC型肝炎、結核などの感染症に関する知識も必要です。 その上、何らかの精神疾患を抱えた受刑者が少なくありません。精神科領域の知識や経験が特に必要な場合が多いでしょう。近年では認知症を患う受刑者が増えてきているそうです。1つあるいは2つ以上の慢性疾患を抱えた複雑な健康状態の上に高齢化が進んできているため、高齢看護の知識も必須と言えるでしょう。
3)高いアセスメントスキル
受刑者が不調を訴えて診療所にやってきたときに、迅速なバイタルサインのチェックと現病歴・既往歴や現在服用している薬の種類など、総合的な情報を迅速に収集し、緊急度の判定ができる能力が必要です。緊急度が高く救急医療が必要な場合は、地域の総合病院などと連携しながら、適切な対処を施す技術が必要でしょう。また、身体的なアセスメント能力だけではなく、精神科領域の精神面のアセスメントができるスキルが必要です。そのため、精神疾患が薬物などによる2次性のものであった場合、薬物離脱を手助けする機会も少なからずあるでしょう。薬物離脱に関する知識やマネージメント方法を熟知しておく必要があります。
刑務所看護師はプライマリーケアから始まり、慢性疾患管理、高齢者看護、精神疾患看護など幅広い医療看護の知識が必要です。特殊な環境で看護師の役割を果たすために、受刑者の不定愁訴や不安定な訴えに左右されず、緊急性を察知できるアセスメント能力が特に重要視されるでしょう。
給料については明確な情報は少ないですが、一般刑務所は法務省の管轄下にあるため国家公務員扱いとなり、雇用主が法務省=給与や退職時の処遇などが手厚いと推測されます。一般に、都道府県の公務員に比べ、国家公務員の給料水準は高く設定されている点もプラスに働くでしょう。また福利厚生(例えば、寄宿舎や休暇手当て、共産組合の福利厚生の利用など)が整っていることも推測されます。