目次
1.看護師の青年海外協力隊への応募、試験、面接
新卒で看護師として働き出し3~4年経つと、大体の業務が身に付き、仕事をする上でも気持ちにゆとりが生まれてきます。そしてこの頃は、結婚退職する人、さらに深くスキルを磨く人、転職する人、違う業界に行く人など、人生の転換を決断する人が多く、看護師としても一つの区切り目の時期になります。その中の選択肢の1つに「海外で働く」ことを考える人もいます。海外で就職する道もありますが、ここでは青年海外協力隊などのボランティアとして働くことについてご紹介します。
また、JICAのホームページの職種別一覧に入ると要請情報検索ができます。実務経験は最低3年以上、仕事内容としては、地域病院での全般的な医療援助、母子保健、 疾病予防、患者教育の他、都市部の病院でのICU、NICU、手術室などで看護師への技術指導、看護学校での学生指導などがあります。その中で、自分の持っている技術でできそうな案件をピックアップしてみましょう。 転職相談S美さんは、小児系での経験が6年になるので、十分条件を満たしていますね。業務内容だけでなく、派遣国もよくチェックしてくださいね。せっかく働くのですから、行ってみたい国や興味のある国で働いた方が良いと思います。また、ご家族も心配するので、安全性もよく確認しましょう。
2.試験合格後の準備(出国までの研修・語学の準備など)
私の知る看護師さんは南米に行っていましたが、食事が4回で、朝・昼・夕方の軽食(17時ごろ)・夕食(8時ごろ)、3時にはおやつもあったそうです。日本人の感覚では、軽食だけで終わりにしたいのですが、ホストファミリーが心配するので遅い時間の夕食も食べていたそうです。昼食後は「シエスタ」という長い昼休み入り、学校やオフィスなども午後は3時から開始です。これも日本人にはなれない習慣で、長く休んでまた活動というのは辛いものですね。また、南米はクリスチャンが多く、日曜日は家族揃って教会のミサに参加するそうです。その後は親戚が揃ってランチと言うのが定番で、ことごとく日本での自分の生活と違い、食事もパンかパサパサの米と肉料理ばかりで、始めは物珍しいのですがだんだんストレスにもなってきたそうです。でも、ホストファミリーが家族のように接してくれ、観光地に連れて行ってもらったり思い出も多く、ホームステイが終わる時はとても寂しかったと言います。このように現地文化になれるというのが1ヶ月の研修期間の目的で、語学学校やホームステイ、バスに乗ったり、買い物したりとほとんど現地語で過ごすので、会話はかなり上達するみたいですね。
3.青年海外協力隊看護師の現地での医療活動について
<業務上の改善>
・申し送りチェックリスト
日勤夜勤の交替時に入院患者の申し送りはしていましたが、物品のチェック、包交車の整理など徹底していなかったので、申し送りチェックリストを作りました。物品管理や施設のチェックも看護の範囲ということが教育できたと思います。
・包交車の整理
日本ではディスポタイプの消毒液が浸透していますが、発展途上国ではコスト面でまだまだ導入は難しく、万能ツボを使い消毒液を使っています。置く場所は決まっているのですが、他の場所に持っていったらそのままに置きっぱなし、使う時に取りに戻る、ということが多く、時間的ロスとイライラ感が目立っていました。簡単なことですが、万能ツボに消毒名と置く場所をラベリング、攝子入れにも清潔・不潔をラベリングし、無駄なく清潔に物品を管理できるようにしました。こんなことでもかなり効率が上がり、有難がられました。
・ナースコールの設置
診療所は20床ほどの入院施設もありますが、ナースコールがありませんでした。前任者がブザーまでは設置してくれましたが、どこで鳴っているのか分かりません。そこで、 青年海外協力隊のメンバーで電気関係の人に協力依頼を出し、各部屋とナースステーションをつなぎ、どこで呼んでいるのか一目でわかるようにしてもらいました。 小さい診療所といえども、手術室、分娩室もあるので、そこにも設置してもらい、ナースステーションにいる人が緊急時、駆け付けられるようにしました。さすがにマイク機能は付けられませんでしたが、呼ばれている場所が分かるだけで、かなりの時間的ロスが改善されました。
<新生児看護の指導>
・保育器の使い方/カンガルーケア
診療所では、分娩も行われます。もちろん時々未熟児も生まれてきます。そこで、前任者は保育器が必要と思い、JICAに要請をし審査が通り、村の診療所に保育器が導入されていました。しかし、前任者は小児系の経験がなく指導ができず、後任者に小児系の看護師を要請したそうです。私が派遣されてしばらくして、1,500gくらいの未熟児が生まれました。早速、保育器を使い、そこで設定方法や使用法、使用上の注意などを説明しました。吸てつ力が弱いので経管栄養を行い、バイタル測定も1時間ごと、呼吸状態をよく観察するように実践を通し指導しました。新生児用の体重計もJICAの支援で導入されていたので、毎朝測り増減をチェックし、保育器内の温度にも気を配りました。現地の看護師たちも、初めて見る保育器での未熟児管理を興味深く学習していました。医師も未熟児に対する知識は少ないので、治療は私の腕に掛かってしまいとても重圧でしたが、他の疾患がなく何週間かで元気に退院できたので、肩の荷が下りたのを思い出します。それからは、小児の専門家として一目置いてもらえるようになりました。しかし、村の診療所では、電気の供給が不安定の時もあり、保育器はあまり現実的ではありません。実際はカンガルーケアの方が実践しやすいため、保温に気を付ける、母親に任せきりにしない、看護師が観察しながら行う、などポイントを実践しながら指導しました。
・新生児チャートの作成
健康な赤ちゃんでも、出生後は状態が不安定のため、観察が必要です。特に未熟児はバイタル測定や経管栄養、排尿も頻繁なので、細かくチェックできるチャートが必要です。該当するものがなかったので、日本の記録用紙を基に、新生児用のチャートを作りました。チェックするだけなので、受け入れは良かったのですが、未熟児の場合、頻繁なバイタル測定や温度チェックなどは面倒がり、実践させるのは大変でした。必要性が理解できないと実践は無理なので、未熟児症例が少ない診療所では定着は難しいかと思いますが、未熟児看護の大まかな流れを伝えられたのは、収穫だったと思います。
・経管栄養の指導/母乳の管理法
日本では哺乳できない新生児に経管栄養を行いますが、今まで村の診療所ではやったことも見たこともないことです。保育器と一緒に経管チューブもあったので、経管栄養のやり方も伝えました。当時、村には粉ミルクが存在せず、母親の母乳を搾乳して行いましたが、その都度搾乳してもらい、夜間の分は多めに搾乳し冷蔵庫で保存しました。与える時は、人肌に温めること、温め過ぎないことなど、母乳の取り扱いについても説明しました。チューブ挿入は、誤挿入するととても危険なので、医師に手技や 哺乳量の算出法を伝え、その後も症例が出たら医師が挿入し指示を出してもらうように伝えました。私の在任中、3~4件の症例があり、看護師だけでなく医師にも未熟児医療の一環を伝えられたため、今後につながると思います。
・母親指導
出産は病気でないとは言え、母体も新生児も出産によりさまざまなリスクが生じます。しかし、村の病院では母親に何の指導なくも退院させるため、母親の知識不足で衛生面、栄養面でトラブルが生じることがたびたび見られました。赤ちゃんの沐浴をしない、オムツをしない、または取り替えない、不潔な寝具に寝させるなどは日常茶飯事で、不潔な環境で下痢や肺炎などに罹る赤ちゃんも多くいました。そのため退院前に母親に、沐浴指導、母乳の与え方、清潔なオムツや服を身に付ける、など育児の基本的なことや、不衛生による起こるリスクを説明しながら指導しました。日本のような沐浴法は、現地では行われておらず、洗面器に5cmくらいぬるま湯を入れて体を濡らす、という方法を看護師は行っていました。それも私が沐浴するように言ったので行っただけで、実際は赤ちゃんの沐浴自体していないようでした。私がたらい一杯にお湯を入れて沐浴をしたら、とても驚かれました。赤ちゃんをお湯に入れる、ということが衝撃だったようです。私の派遣先は暑い方でしたが、年中常夏ではなく夏季と雨季があり、自然の中なので朝夕は冷え込みます。さすがに、ひたひたのぬるま湯での沐浴は赤ちゃんには酷です。 文化の違いで、たっぷりのお湯に入る習慣がなく、日本式の沐浴法は現実的ではありませんでしたが、赤ちゃんを清潔にすることの必要性、沐浴する時の注意点(お湯の温度や保温など)は抑えるよう、看護師にも指導しました。その後、退院時は母親とともに沐浴指導をするのが定着しました。
・未熟児退院後の訪問指導
退院後の新生児や、特に未熟児で生まれた赤ちゃんには、訪問してフォローしていきました。 肺音など全身状態の観察のほか、母乳は飲めるのか、元気はあるか、排便についてなどを聞き、アドバイスしたり体重測定をしました。その時、母体についても問題はないか確認しました。また、多くの夫婦で、避妊を考えず夫婦生活をしていて、出産後間もないのに妊娠するケースも時折ありました。母体の回復前の妊娠はリスクにもなるため、出産後しばらくは夫婦生活を避けることを説明し理解を促したり、オギノ式で排卵の目安を説明しました。診療所は保健所の役割もあるため、避妊具やピルが国から配給されています。必要時は診療所に来るように啓蒙もしていきました。
<小児予防接種などの管理>
・地域ごとに母子カードを管理
診療所は保健所の役割を兼ねており、予防接種や衛生指導、避妊指導なども行います。子供の成長発達や予防接種に関しては、国から配給される母子カードがあり、身長・体重グラフ、成長発達、予防接種の日付などをチェックできます。退院時に2枚作り、1枚は家用、1枚は病院に保管し、予防接種の有無を確認していました。しかし、カードを作りっぱなしで管理しないため、同じ赤ちゃんが来ても以前のカードを見つけられず、新しく作ることがたびたびありました。母親がいつ予防接種をしたか覚えていれば良いですが、同じ注射を複数回させるリスクがあります。そのため、村は5つの区画に分かれているので、ファイルを作り区画ごとに整理しました。後で訪問もできるように目安になる場所(教会の横、パン屋の前など)をカードに記入しておきました。ただファイリングするだけなのですが、村にはファイルが手に入りません。そのため、都市部まで買いに行かなければならないのですが、村は都市部までバスで8時間掛かり、道路も舗装されておらず行くだけでも一苦労、日本では簡単にできることが、現地ではファイリングするだけでも大プロジェクトのようになるのです。区画ごと、名前順にファイルしただけでとても管理しやすくなりました。
・予防接種の啓蒙
診療所で出産した場合は、その場で母子カードを作り、母親にも教育し、定期的に診療所に来るように伝えるのですが、診療所の支払いも負担になるような妊婦さんは、自宅で家族が取り上げたり、診療所の看護師が別口で頼まれて自宅で取り上げたりもしていました。自宅出産の新生児は、母親の知識がないと診療所に予防接種を受けに来ません。栄養状態などもチェックできないため「どこどこで赤ちゃんが生まれた」という噂を聞きつけたら、訪問して体重測定をしたり、予防接種を実施しました。その都度、予防接種や、赤ちゃんの成長発達をチェックすることの必要性を説明し、定期的に診療所に来るように啓蒙活動もしました。
・予防接種の実施
予防接種は、診療所で行う場合、訪問して行う場合の他、周囲のコミュニティにも出向き、行っていました。派遣先の村もかなりの田舎でしたが、コミュニティはさらに1~2時間平原を車で走った所に点々と存在している凄い所です。村の人はスペイン語で会話しますが、コミュニティでは部落の言葉を使うため通訳が必要です。私のつたない言葉を聞きなれている診療所のスタッフが部落の通訳さんに伝え、通訳さんが部落の言葉に訳す、という2重通訳のような状態でしたが、みんなの協力でいつもどうにか無事に終わらせることができました。予防接種は、都市部の保健センターから時折訪問チェックが入るので、診療所でも力を入れていましたが、母子カードの管理不足や、診療所に来ない子供にはできていない状態でした。ファイルの整理や訪問や啓蒙活動で、接種率がかなり上がり成果がありました。
<他職種の協力隊メンバーとのコラボ>
先ほどのナースコールの設置もそうですが、青年海外協力隊のメンバーには多種多様の職種の人がいます。私の勤める診療所は保健所の役割もあり、歯科衛生や食事指導、衛生指導など、住民への啓蒙も大切な仕事です。自分の専門外の場合、協力要請をお願いし、互いの職場で許可されればコラボが成り立ちます。歯科衛生士に来てもらい、歯の健康や歯磨きの仕方などの指導をお願いしたり、栄養士には、健康的な食事についての講義や、病院での病院食や手術後の食事に対する指導、同じ看護師でも手術室経験者に来てもらい、手術室の管理や手術室看護について、教育してもらったりしました。同じ村に音楽教師のメンバーがいたので、病院でバイオリンコンサートを開いてもらったりと、メンバー同士協力すると、できることが大幅に広がり、有益な活動ができます。