40歳から74歳までの全ての医療保険に加入する被保険者および被扶養者を対象として行われるのが「特定健診」で、その結果に応じて必要性が認められた人々に行う保健指導が「特定保健指導」です。特定健診では、内臓脂肪型肥満(メタボ)の人やその予備群を見つけることを目的としおり「メタボ健診」とも言われます。ここではそんな特定健診・特定保健指導の概要や、看護師資格で挑戦する方法などをまとめていきます。
私は大卒で今の総合病院に入って資格としては看護師・保健師を持っています。5年ほど勤務しましたが少し体調面の不安もあり夜勤のない職場を探しています。その中でも特定健診について興味があるのですが、特定健診に対して看護職はどんな業務を行っているのかについて色々と教えて頂きたいです。
まず特定健診について簡単に説明しますね。
特定健診とは生活習慣病の予防と医療費の適正化をはかるために平成20年4月から始まった、40歳から74歳までの方を対象としたメタボリックシンドロームに着目した健診のことをいい、正式には「特定健康診査」と言い、「メタボ健診」とも呼ばれます。特定健診は、40歳から74歳の公的健康保険組合加入者全員が対象となっており、国保や健保などの医療保険者には特定健診をすることが義務付けられています。
特定健診の検査項目はメタボリックシンドロームに対応した検査項目となっており、基本的な検査項目として、身体計測(身長、体重、腹囲、BMI)、血圧、血中脂質検査(中性脂肪、HDLコレステロール、LDLコレステロール)、肝機能検査(GOT、GPT、ɤ-GT)、血糖検査(空腹時血糖、ヘモグロビンA1c、随時血糖)、尿検査(糖、蛋白)の検査を行います。また医師の判断により貧血検査や12誘導心電図検査、眼底検査、血清クレアチニン及びeGFRが行われることもあります。
厚労省のデータによると直近の特定健診の実施状況は対象者数が約5,396万人であったのに対して受診者数は約2,706万人で実施率は50.1%です。年々受診者数は増加していることからも、特定健診における看護職の業務や役割も求めらる機会は増えていくことと思われます。
特定健診についてよくわかりました。現在の日本の医療現場において医療費の是正の観点を含めて、メタボリックシンドロームを改善して生活習慣病を予防していくという考え方はますます重要視されていくような気が私もします。この特定健診における看護職の役割や業務を教えて下さい。
特定健診では、健診結果から現時点で生活習慣病の発症リスクが高く、でも生活習慣の改善によって生活習慣病の予防効果が多く期待できる方に対して、生活習慣を見直すサポートをしています。
このサポートを「特定保健指導」といい、特定保健指導にはリスクに応じて「動機づけ支援」と、よりリスクの高い方には「積極的支援」という支援体制をとり、生活習慣見直しのサポートを行っています。動機づけ支援および積極的支援では、初回面接を行い、個別面接の場合は20分以上、また8名以下のグループ面接の場合は80分以上かけて専門的知識・技術を持った者が対象者に合わせた実践的なアドバイスを行い行動目標を立てます。そして自身で行動目標に沿って生活習慣の改善を行ってもらい、3か月後に実績評価を面接または電話やFAX、メール、手紙などの通信で評価をすします。積極的支援の場合は初回面接から実績評価までの間も継続的支援として個別支援やグループ支援、電話支援、メール支援などの通信支援を受けることになります。
特定保健指導における動機づけ支援や積極的支援は厚生労働省によって保健指導プログラムが定められており、どの医療機関でもこの厚生労働省が定めた保健指導プログラムに沿って特定健診および特定保健指導を行っています。
特定健診と特定保健指導についての大まかな仕組みについてよくわかりました。特定健診の看護職にはどんなスキルが求められるのでしょうか?
特定保健指導は、初回面接も個別面接からグループ面接、また実績評価も個人面談だけでなく通信での評価など、特定保健指導を受ける人の人数や指導者の人数など踏まえて手段を選択されるため方法は様々です。
ただ共通していえることは、ただ一方的に面接を行いアドバイスをするのではなく、特定保健指導を受ける対象者自身が問題に気づき、生活習慣を改善できるような関わりを行う必要があるということです。例えば、食生活改善ひとつをとっても、ただ体に良い食生活の情報を伝えるだけでは対象者の方の気づきにはならず、3か月という短期間で対象者が行動に移すことができません。そのため、指導者は対象者の職業や家族関係などの生活背景を考慮したり、対象者自身が食生活に対して現時点でどんな思いでいるのかなど、対象者の個別性を理解した上でアドバイスをしています。また、自己効力感を高められるような簡単で実践しやすい具体的な行動目標を共に考えたり、対象者が視覚的にも理解しやすいようにカロリーブックやパンフレットなどを使用したりするなど、漠然とした知識から、具体的にどうしなければならないかなど気付くことができるような働きかけなど、指導者の方々は知識と経験を踏まえて様々な工夫をしています。
特定保健指導の看護職は、メタボリックシンドロームに対する知識や、生活習慣改善の専門的な知識だけでなく、対象者の方々が自ら率先して生活習慣改善ができるようにするための信頼関係の構築や情報収集能力、コミュニケーション能力も求められそうですね。
その通りです。特に、特定健診を受けられて特定保健指導の対象者となった方々はあくまで生活習慣改善の必要性はあるものの、現時点で疾病に罹患しているわけではないため、中には問題意識の低い方や、自分の生活習慣を変えることを快く思わない方もいます。そんな方々にも、生活習慣改善の必要性に気づき、自らが積極的に行動を変えていけるように働きかけるのはとても難しく、専門的な知識や技術をもった人が特定保健指導を行うよう厚生労働省の指針でも定められているくらいなんですよ。
特定保健指導には、専門的知識、技術をもった人が行うとおっしゃいましたが、具体的に保健師ということでいいんですよね?
厚生労働省の標準的な健診・保健指導プログラムでは、
保健指導実施者は健診・保健指導に関わる医師、保健師、管理栄養士を保健指導実施者と定めています。転職相談C香さんは看護師資格に加えて保健師資格もお持ちなのでもちろん特定保健指導を行うことができるのですが、実は特定保健指導実施者の確保が困難ということから、厚生労働省は特定保健指導実施者についての定めを変更しており、平成20年4月の時点で1年以上生活習慣病予防に関する相談業務に従事した看護師であれば「平成 35年度末まで」という期間限定で特定保健指導の業務に従事することができるようになっています。元々は保健師資格がないとダメだったんですが、緊急措置的に生活習慣病予防に関する相談や教育の実務経験がある看護師の方は特定保健指導の業務に携わることができるようになりました。
厚生労働大臣に認められれば保健師資格がなくても看護師資格で特定保健指導に携わることができるということなんですね。私の職場の看護師は保健師資格持ってない人が多いのでそういう人には朗報ですね。具体的にどうすれば厚生労働大臣に認めてもらえるんでしょうか?「1年以上生活習慣病予防に関する相談業務に従事した看護師」というのをもう少し詳しく教えて下さい。
具体的な実務経験としては「①保険者が保健事業として実施する生活習慣病予防に関する相談、および教育の業務」「②事業主が労働者に対して実施する生活習慣病予防に関する相談及び教育の業務」が定められていて、これは例えば健康保険組合に雇用されていた看護師で、その健康保険組合に加入している被保険者や扶養家族に保健指導をした経験があったりとか、病院や企業に勤めていた看護師で病院の職員や企業の職員に対しての健康管理を行っていたなどのことを指しています。つまり病院にかかっている患者さんに対しての保健指導では実務経験に加算されないという点について注意が必要となります。これらの業務を平成20年4月の時点で1年以上経験していればokということになります。
なるほど理解しました。ということは20代の看護師などで平成20年4月の時点で看護師でもなかった人たちは特定保健指導などは行えないということですよね?
いいえ。所定の研修を受けることでokになる場合もあります。2つに分類されるんですが「食生活の改善指導」と「運動の改善指導」というのがあって、具体的には看護師、栄養士、歯科医師、薬剤師、助産師、准看護師、歯科衛生士の資格があり食生活改善指導担当者研修(30時間)を受講した者が「食生活の改善指導者」として認められ、一方で「運動の改善指導者」として認められるには、看護師、栄養士、歯科医師、薬剤師、助産師、准看護師、理学療法士が運動指導担当者研修(147時間)を受講すれば大丈夫です。
なるほど。これなら若い看護師でもチャレンジできますね。まとめると「今までは医師、管理栄養士、保健師と職種が絞られていましたが、厚生労働省の特定健康診査及び特定保健指導の実施に関する基準が変更となったことで、看護師だけでなくその他ほかの職種の人でも所定の研修を受けたり、また相応のキャリアがあれば、特定保健指導に関わることができるようになった」ということなんですね。
その通りです。一応「1年以上生活習慣病予防に関する相談業務に従事した看護師」について補足しておくと、経験年数の1年以上という定めは、1つの雇用先で1年以上の経験でなくてもよく、例えば同様の保健指導経験があればA健康保険組合での実務経験が6か月、B企業での健康管理に従事した経験が7か月の合計1年以上というような形であってもよいということになります。以上の点で該当している看護師の方は研修がなくても特定保健指導従事者として働くことが可能ですので、ぜひ参考にしてみてください。
看護師が特定保健指導に携わるための方法がよくわかりました。詳しく教えて頂きありがとうございます。
特定健診や特定保健指導の話を聞いて、ぜひ私も特定健診等のサポートや保健指導など今まで経験したことない分野で仕事をしていみたいと思ったのですが、一般病棟と異なるという点も多いと思いますし、特定健診や特定保健指導で働くメリットやデメリットなどがあれば教えて欲しいです。
今まで経験したことのない分野で新たなに看護職として転職をしょう思うと、不安なこともありますし、メリットやデメリットも気になるところですよね。ではまずメリットからお話ししていきたいと思います。
まず、特定健診などの健診のサポートや保健指導を行うにあたって、最も業務に携われるのは健診専門のクリニックや施設などに就職することになります。健診専門のクリニックや施設で保健指導や健診のサポートの業務をする場合、施設の勤務体制にもよりますが、基本的に日勤での勤務となり夜勤業務を行う必要はありません。そのため、結婚や出産により日勤での働き方を希望される方にとってはおすすめといます。健診専門のクリニックで働く場合は残業が比較的少ないこともメリットといえるでしょう。
また、健診業務などで対象者の方々に保健指導をするということは、正しい知識だけでなく、相手がわかりやすく伝えるためにはどうしたらよいか考えてその人に合わせた指導が求められるため、教育や指導の分野におけるスキルを高めることができます。保健指導では、対象者の生活背景や現在の生活習慣、健診結果などの情報収集能力や、それらを踏まえたアセスメント能力、患者さんの自己効力感を高められるような声かけなど、様々な能力が必要です。特に健診時だけでなく入院された患者さんに対しても時に退院後の生活改善などを踏まえて教育や指導が必要な場面も多くあります。そのため、保健指導を通してこれらの指導方法のスキル身に着けることはメリットになるでしょう。
健診業務や保健指導業務のメリットについてよくわかりました。では、反対に何かデメリットがあれば教えて下さい。
健診業務や保健指導業務に携わることのデメリットのひとつは、お給料が下がる可能性があるということです。特に病棟勤務で夜勤業務などもしっかりこなされていた方の場合には、夜勤手当など様々な手当が付いており、基本給に上乗せされる形で毎月のお給料が支払われています。しかし、さきほどメリットのところでお話ししたとおり、健診専門のクリニックなどに転職して日勤業務だけになった場合は夜勤手当がないため、お給料は下がってしまいます。加えて健診専門のクリニックなどは一般病院と比較すると残業が少ない分残業手当もあまりありません。そのため、しっかりとお給料がほしいという方は転職先をしっかりと考慮する必要があります。
また、健診業務や保健指導業務をメインでお仕事をされる場合、健診のための採血業務などは頻繁に行う機会はあるかもしれませんが、その他の血管確保、点滴、BLSなど病棟で経験するような基本的看護技術や救急対応の機会が減ってしまいます。そのため、長年健診業務や保健指導業務に携わったのちに、また病棟勤務などへ戻られる際は業務内容が異なることによるブランクが発生してしまい、これをデメリットに感じる人もいます。看護技術や救急対応技術も継続的に身につけておきたいと考える方は健診専門クリニックよりも総合病院などで健診業務に携われる機会があるかどうか、転職活動時に確かめておく必要があります。
ぜひ私も特定保健指導などの保健指導業務に携わってみたいのですが、今までこういった業務の経験がないため、自分に向いているのかよくわからず不安です。これらの業務に携わるにあたってどんな人材が適しているとキャリ姉さんは考えられいますか?
健診業務や保健指導業務は一般的な病院での看護職業務とは異なるため、わからないことも多いですよね。基本的には、保健師資格保有者や一定の実務経験者、規定の研修を受けた方であれば誰でも行える業務ではあるんですが、業務内容が特殊であることも事実ではあるため、今回は転職相談C香さんも気になるこんな人は向いている!と私なりに考えていることをお話ししていきますね。
まず一つ目は、人と話すことが好きであったり、多くの人前で話すことが苦手ではない方です。特定保健指導の初回面接などでは、対象者の方と個人面談をしたり、複数のグループを対象にした面談を行います。その中で、保健指導を進めていく看護職はときに対象者が自分の考えや思いを表出しやすいようにサポートしたり、グループ面談の中で円滑に話が進められるようにリーダーシップをとったりする必要があります。そのため、状況に応じて聞き役に回ったり、積極的に質問をしたりと、多くのコミュニケーションスキルが求められると言っていいでしょう。そのため、人と話すことが好きであったり、多くの人前で話をすることが苦手ではない人は向いているといえます。
そして、特定保健指導従事者の最も重要な役割と言えば、対象者の生活習慣上の問題点を明確化し、対象者本人か改善できるような目標をともに考え、必要に応じて継続介入し、その結果を評価するという一連の流れをしっかりと行うということです。これらは、PDCAサイクルといい、P(Plan:計画)→D(Do:実行)→C(Check:評価)→A(Act:改善)という段階を繰り返すことによって事業や業務を円滑に進めていくとともに、継続的に改善していくというプロセスになり、特定保健指導でもこのプロセスに従い、保健指導を進めていくことになります。よって、対象者の話を聞いて終わり、指導をして終わりではなく、対象者の問題点を抽出し、そこから対象者が実践できる計画をともに考え、具体的に立案し対象者に実行してもらいます。そして、その結果を改めて評価することで新たな対象者の問題点や課題、また実行できたことに対しての評価を行い、次の課題を見出して、継続的に対象者が生活習慣の改善を実践できるような働きかけをしなければならないのです。そのためには、対象者から得た情報を体系的にとらえ、計画やアセスメント、評価を行う必要があるため、物事を体系的にとらえたり、計画的に物事を実践することができる人が特定保健指導などの保健指導業務に向いているといえます。
定健診などの保健指導業務に向いている人材についてよくわかりました。ありがとうございます。
ここまでの説明で、特定健診・特定保健指導についてよくわかりました。ちなみに、実際に全国には特定健診を行う病院や施設はどれくらいあるのでしょうか?
厚生労働省健康局総務課保健指導室の報告によると、
都道府県ごとの特定健康診査機関は全国で7995施設、特定保健指導機関は2956施設となっています。また地域別でみると、特定健康診査機関数は岐阜県が最も多く893施設に対して滋賀県は13施設、特定保健指導機関は富山県が最も多く249施設に対して、特定健康診査機関数でも最も少ない滋賀県が10施設と地域によってもかなり施設の数に差があるといえます(参照:
特定健診・特定保健指導の実施体制)。この報告件数は、健診専門のクリニックだけでなく、個人病院や総合病院など様々な形態の施設となっています。そのため、自分はどんな病院で特定健診などの健診業務に関わりたいのか考えておく必要もありますし、自分の勤務を希望する地域にはどれだけの施設があるのかについても事前に知っておくとよいでしょう。
また健診に関わる業務を希望される場合は一般的な病棟勤務や外来勤務での募集と比べると求人数も少ないといえます。そのため、求人募集についての情報収集をしっかりと行う必要があるといえます。
特定健診・特定保健指導の求人探しは転職エージェントを利用!
特定健診・特定保健指導に関わる業務の求人数は、一般的な病棟勤務や外来勤務での求人数と比べると数はかなり少ないです。地域によって施設数にも差がありますし、求人を見つけたとしても正規雇用や非正規雇用などの雇用形態の違いなどもあり採用条件も様々です。自分で特定健診や特定保健指導の業務に携わることができる職場を探すとなると割と難しいのです。自分だけで求人を探そうと思うと労力がかかるだけでなくぴったりな求人があったとしても見逃してしまうというリスクもありますので、そうならないためにもマイナビ看護師などの看護師転職エージェントのサポートを受けることをおすすめします。看護師転職エージェントでは多くの求人を扱っているため、特定健診・特定保健指導に関わる業務の求人もありますし、自分に合った仕事探しをする上で一番の近道になるといえます。