イギリス国内の慢性的な看護師不足を考えると、日本看護師にとってビザの取得はそれほど難関ではないと思われます。フローレンス ナイチンゲールによって近代看護の発祥の地イギリスは、その歴史の中で積み上げてきた看護のレベルは、臨床から研究に及んで国際的に見てもとても高いです。
近年のイギリスでは、年々看護師の数が減っていっています。2016年から2017年にかけて行われたイギリス国内調査で、全看護師人口が前年に比べ3%減少し、看護師登録取り消し率が23%も増えたというデータ(イギリスの看護師に関するwikipedia参照)がありました。特にイギリス生まれの看護師の数が年々減少傾向・不足傾向にあることが報告されています。一方で同じ参照ページを見ていただくと、2015年に行われたアンケート調査で全看護師人口のうち21.7%が海外から来た看護師であることがわかっています(イギリスで働く日本人看護師人口はまだそれほど多いとは言えませんが・・・。)つまりイギリスは割と海外看護師の受け入れには積極的なのです。さらに2020年から、海外看護師のイギリス看護師登録制度に新しい改正が加えられ、応募方法の簡素化、英語資格試験の合格ラインの緩和などが組み込まれる予定で、今後イギリスで国際看護師を目指す日本人看護師さんたちにはとても朗報なのです。仕事内容的にも日本での看護師の仕事内容がこなせていれば問題ありません。
ここでは、看護師不足のイギリスで看護師として働こうと思われている日本人の看護師たちに向けた「看護師としてイギリスで働く」手引きをご紹介します。イギリスで看護師として働く方法や給料の話、仕事内容の違い、資格の必要性などにも言及します。なお本文は海外に在住する女性看護師の方へのヒアリングをもとに作成していますが、最新情報は各リンク先の公式ページなどもご参考ください。
1.イギリスでの看護師登録までの流れ
The Nursing and Midwifery Council (NMC)は、日本における看護協会に当たる組織です。看護師登録の管理は全てこちらで行われています。 日本人看護師がイギリスで働くには避けては通れません。資格取得というほど難関ではないので登録というようなイメージが近いかもしれません。
STEP1 オンラインで応募条件を満たしましょう
NMCは従来のペーパー重視の応募申請だったようですが今はオンラインで簡単に応募申請ができるようになっています。NMCのホームページから 『creat account』のボタンをクリックし、順序に従って海外看護師専用のページに進みましょう(https://ireg.nmc-uk.org/)。 新しくアカウントを作ったら必要な応募書類を翻訳した状態でアップロードしましょう。 STEP1の審査で応募条件を満たしていることが認められたらSTEP2に進む資格を得られます。
2018年以降、STEP1のプロセスが少し緩和されています。日本の国家資格を取らなくても応募できるように緩和されました。以下のいずれかがあればまず応募可能です。
- 日本の看護師免許のコピー
- 日本の看護学校を卒業後に、看護師国家試験に合格できなかった人は、卒業校の卒業証明書と成績表の翻訳したもの
これに加えて、海外ではよく履歴書の最後で最低二人の推薦者が必要で、その目的は、応募者の仕事に対する姿勢や人チームメンバーとして一緒に働きやすい人間性か、などを面接者が直接電話で質問するためです。イギリス看護師応募に当たって必要な書類の中に、「応募者のcharacterを知っている人からの書類」と大まかに書かれていました。日本ではこれに当たるのが推薦状かなと思われますので、日本の雇用主または卒業校の講師などから、あなたの人間性を説明した推薦状が必要になるかもしれないです。
STEP2−a 能力テスト(各専門分野)CBT
ここで受ける専門分野のテストを各自で決めます。専門分野は大きく分類されています。
- Adult nursing (成人看護)
- Children’s nursing (小児看護)
- Learning disabilities nursing (学習障害看護)
- Mental health nursing (精神科看護)
120問の選択肢問題を4時間以内で受けるテストです。68%以上のスコア獲得の人が合格です。3回まで受けられます。平均70%から80%の受験者が合格するようです(NMCの調査※2018年)。結果は2日以内に通知が来るようです。練習用CBTがNMCのウェブからトライできるようですのでぜひ利用しましょう(参考URL)
STEP2–b 実技テストOSCE(Objective Structured Clinical Examination)
OSCEに合格することが最後のハードルです。決められた大学で、2日間にわたり実技の試験が行われます。 シュミレーションの形で試験が行われます。テストされるのは、アセスメント能力・看護計画の能力・看護実践の能力・看護評価の能力が大きな柱です。日本で看護師資格取得の時に学んだ基本看護を思い出してください。 合否は2日目に発表されます。合格率は80%前後のようです(NMC調査※2018年)。CBTと同じく3回まで受験できます。
STEP1&2にかかるコスト 総額は、申請費用 £140、Part 1 test of competence (CBT) £90、Part 2 test of competence (OSCE) £794、手続き料£153、合計£1,177 (2019年9月だと1£=135円程度)ですので目安にしてください。またOSCEはNMCが認定した教育機関で行われます。受験申し込みは各自行います。
・ University of Northampton(参考URL)
・ Oxford Brookes University (参考URL)
・ Ulster University (参考URL)
OSCEの受験前の準備に関する情報は、各大学のOSCE 申し込みサイトに書かれています。十分準備して受験に挑みましょう。
2.イギリスで看護師として働くには英語力が必要!英語試験の概要など
看護師としてのスキルや経験が評価されて看護師登録ができても実際に働くとなるとその仕事内容以上にやはり英語力は必須です。「IELTS(International English Testing System)」「OET (Occupational English Test) 」など公的なテストのスコアを上げるために勉強してみるのは王道的な手法ですし、実はIELTSやOETでの合格ラインについてはNMCが厳しく打ち出しています。
NMCが求める合格ライン
IELTSではリスニング・スピーキング・ライテイング・リーデングの全て7ポイント(ただし2020年の改正でライテイングは6.5でも良い)が合格ラインです。(9ポイントが最高点:ネイテイブレベル)IELTSは各科目を分けて受験できるので半年以内に全科目を別々に受けることもできます。
OETでは全ての4科目でオールB以上が合格ラインです。
また「イギリス英語に慣れる」というのも大事です。日本で認識されている英語はほぼアメリカ英語です。イギリスとアメリカの英語は、スペルが違ったり発音が違ったりする場合があります。特にIELTSでは、リスニングの問題で回答を書くとき、スペルミスがあっても減点されます。イギリス英語とアメリカ英語ではスペルがやや異なる(例:Apnea アメリカスペル; Apneoa イギリススペル)ので、注意しておきましょう。
日本人看護師にとって、イギリスで看護師として働くにあたり英語習得がやはり難関です。実際にイギリスに住み始めて仕事を始めると徐々に実力は上がっていくのでしょうが、日本にいるときに、英文の医療ジャーナルや新聞を読んで、目を英語に慣らしておく訓練をしておくのはなかなか難しいですね。日本人看護師の共通点は、「自分は英語がダメだから」や「英語の試験が難しいから」と嘆くことが多いことです。その反面、集中してあまり試験対策をやってらっしゃらない場合が多いですね。1つの選択肢としてIELTSまたはOETのpreparation courses(準備コース)に入学して資格試験対策することなどもいいのかもしれませんね。日本にも準備コースがあるので利用して見てはどうでしょうか?(例;IELTS試験・海外留学準備・ケンブリッジ英検コース)
3.イギリスでのビザ取得と移住の流れ
近年イギリスでは流入する難民や移民に対しる就労規制を設けています。しかし不足する技術者や専門職の移民に対しての規制は徐々に緩和されています。イギリス国内の慢性的な看護師不足を考えると、日本看護師にとってビザの取得はそれほど難関ではないと思われます。ただし、年間のEU圏外から来る看護師の制限数は決まっているので、ビザが降りるまでの期間は過去に比べやや長いかもしれません。余裕を持ってビザの申請に挑みましょう。
1 長期就労ビザに必要なスポンサーをゲットする
長期就労ビザの取得にはスポンサーをゲットしましょう。イギリスでは、多くの病院が海外から来る看護師をスポンサーしています。ほとんどは、就労ビザ(General Skilled visa)が下りるとそのまま雇ってもらえます。就労活動の手間が省けます。働きたい病院を調べ、一応給料なども調べて、スポンサーシップに関する情報を調べましょう。
また有料でスポンサーになってくれる団体もあります。国が認定している団体なので安心です。スポンサーの認可がおりたら認定証がもらえます(参考URL)。
2 いつビザ取得に取り掛かる?
ビザは3週間くらいでおります。最長5年就労できます。早くて仕事開始の3ヶ月前 500ポンド多めに払うと手続き短縮できるそうです。
3 ビザの取得にかかる費用
ビザの取得にかかる費用は種類によって異なります。就労期間が3年以下の場合、3年から5年までの場合、そして5年以上の場合とで疲労が200ポンド前後異なってきます。よくプランを立てて申請しましょう。
4.イギリスで働く看護師の給料事情や仕事内容など
イギリス看護師たちの給料は経験年数や専門分野によって違っています。大学卒業1年目のスターターの看護師は、年収20,000ポンド(1ポンド約135円程度※2019年9月)ほどです。平均年収は27,000ポンド前後です。経験年数が増えたり、管理職についたりするにつれ、年収がアップされます。研究分野で働く看護師は年収平均40,000ポンドだと言われています(参考URL)。
仕事内容としては、イギリスの看護業務も日本のそれもほとんど変わりません。日本の総合病院などで働いてきた看護師たちは、英語さえできればイギリスで働くことが容易です。イギリス看護師は日本看護師に比べ、有給が取りやすかったり、就業の1時間前に入って仕事を始めたり残業奉公する必要がないので、生活の質が上がるそうです。
人間の解剖生理はどの国に行っても同じなので、基本的にアセスメントの際も同様にすればいいです。ただ患者は日本の患者に比べて大きくて体重も多い人が多いので、マニュアルハンドリングのトレーニングはきちんと習っておきましょう。 また薬の名前などが日本のものと違うので注意が必要です。イギリス版看護薬剤辞典を購入しておさらいしておくと便利です。
今後イギリスでの看護師不足の背景から、日本での看護師資格を生かしてイギリスで働く看護師も増えるかもしれません。日本で学んだ高い看護の知識と技術、また『おもてなし』精神が根底にある独特な看護観の組み合わせによって、どれほど日本人看護師のレベルが高いかを示すチャンスかもしれません。日本の看護師資格の質の高さはまだまだ世界ではあまり知られていませんので、世界に羽ばたいてぜひ活躍して下さい。
また、イギリスへ移住して就労した経験のある看護師は、ほぼみんなヨーロッパ各国を旅した経験があるそうです。フランスやスペイン、ポルトガルなど、ヨーロッパ圏内ならどこへでも電車で行けますし、晴れてイギリスで働き始めたら、ぜひローロッパ各地を巡ってエンジョイしてください。